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すると店の前にスッと立っている、見覚えのある男性に気が付いた。
「王くん。」
「王。」
田村の声が、未来の声と重なっていた。
「えっ⁉︎」
未来は、田村を振り返った。
さすがの田村も驚いた様子で、未来を見ている。
「ヤッパリ、ミキサンデシタ。」
「私共の王と、お知り合いですか?」
田村は、意外と言った様子で尋ねた。
「はい。最近知り合って…。」
未来も、思いがけない展開に戸惑っていた。
「王くんは、ここで働いているんですか?」
「ええ。」
「ハイ。」
今度は、田村と王が同時に返事をした。
お互い顔を見合わせたところで、王があの端麗な笑顔になって言った。
「マネージャー、オツカレサマデシタ。ミキサン、スムトコロオナジダカラ、イッショニカエリマス。」
その言葉は、更に田村を驚かせたようだったが、未来は王のことが気になったようで、それには気が付かなかった。
「王くん、予定とかないの?大丈夫?」
「ダイジョウブデス。」
「田村さん。今日はありがとうございました。
ちゃんと王くんは送り届けますので、ご心配なく。」
未来の言葉に、田村は目を丸くしてから、声を出して笑った。
「あなたと言う方は、本当に。」
「王、大事なお客様です。よろしくお願いします。」
王はハイっと返事をし、未来は会釈をすると、並んで歩き出した。
田村は2人を見送ると、首を捻りながら店へと戻って行った。
「ミキサン、ダイジョウブデシタカ?ケンカデスカ?」
未来は恥ずかしくなって、天を仰いだ。
「あー、王くんに変なところ見られちゃったなー。
ハァ。」
「ヘンジャナイ。ダイジョウブデス。」
嘘のない言葉ということは、未来にも伝わった。
「ありがとう。私たちのこと、見た?」
「ハイ。エントランスデ。」
「そうか。」
「彼とね、一緒に住んでたの。でも勝手に出てきて、あの家に住んでる。」
「ワオ。」
「今日、別れたいって言ったけど、わかってもらえなかった。」
「ドウシテ?キライ?」
「嫌いじゃない。」
「スキナヒト、デキタ?」
「できてない。」
話をしているうちに、駅に着いたので、そこで会話は途切れた。
夜遅いとはいえ、何かと騒がしい駅の中で、2人は黙ったままだった。
電車に揺られながら、未来は王から聞かれたことを思い返していた。
恋愛において、決定的な理由がないのに、関係を終わらせるという行為は、とても難しいことなんだと思った。
気まぐれに見え隠れする、街の明かりを見送っているうちに、未来の頭の中は、空っぽになってしまった。
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