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 妻。それは、俺がこの世で最も憎いもの。  奴は今、嵐の夜のホテルが舞台の、安っぽいミステリードラマを観ている。 「おい」 「んー?」  カーペットで胡座(あぐら)を組む俺の膝の上。タコの足のようにうねる髪の中央で、()きたての卵のような丸顔が、俺を見上げて笑った。 「なぁに? 大地(だいち)君」 「『なぁに?』じゃねぇ。いつまでそこにいやがんだっ」  膝で後頭部を押してやる。が、重力を味方につけた頭は、一向に退()く気配がない。 「だって幸せなんだもーん。大地君とくっついてるのが、私の一番のストレス解消法なのー」 「お前から出てきたストレスが倍になって俺に入ってくんだよ。早く退()け」 「やだーっ」  離れるどころか(もも)に頬を押し付けてきやがる。  一旦イライラを抑え、深呼吸。俺は冷静に口を笑わせる。 「そうか。そんなに俺と離婚がしたいか」 「やっぱりテレビはちゃんとした姿勢で観なくちゃねっ。美容にもよくないしっ」  高速とも呼べる動きで起き上がった妻は、背中をピシッと伸ばし、俺の横に体育座りで並んだ。  モカブラウンの髪がこぼす、爽やかな甘い匂い。くすぐったくて、いつも鼻につく。
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