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凍った足を動かせずにいると、エレベーターが、人を吐き出す音を鳴らした。
紺の制服姿の女の子と、裾の広がったふわふわなワンピースを着た女の子。開いたドアから、手を繋いだ二人が出てくる。
「天音さん。おはようございます」
「あーちゃん、おはよぉ」
「蝶子ちゃんに彩愛ちゃんっ。おはよう」
静かに微笑む中学生の蝶子ちゃんと、まだ言葉が頼りないけどあどけなく笑う幼稚園児の彩愛ちゃん。このマンションの仲良し姉妹。
「今から学校だよね。気を付けて、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます。行ってきます」
「いってきまぁす」
丁寧に頭を下げてくれる蝶子ちゃんと、元気よく手を振ってくれる彩愛ちゃん。仲良く登校する二人を、私はやっぱり親目線で見送っちゃう。
夫と私の間にも子どもがいたら、それはもう、とっても可愛いだろうな。夫にそっくりな男の子だったりしたら、一秒も目を離したくない。夫よりかっこよくなることはないだろうけど。
想像してる内に、お腹が痛くなってきた。
「……あ。そういえば、朝食のヨーグルト、期限が一日切れちゃってたっけ」
てへ。このこと大地君には内緒にしなきゃ。
「さてと。洗い物しよっと」
お腹をさすって、私はエレベーターに乗り込む。
帰ってスマホを見たら、“わざわざ弁当届けてくれたことは感謝する。ありがとう”ってLINEのメッセージが入ってて、その画面をスクショした時にはもう痛みは薄れていた。
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