世界で一番憎い妻。

１

「ねぇ大地君。このドラマ、誰が犯人だと思う？」

「殺された大富豪の妻。あの女どう見ても遺産目当てだろうが。本命はコンシェルジュの男で、結託して旦那を殺したんだろ」

　うるせぇ。今一番投げつけてやりたい本心の代わりに、ドラマの真相を暴露してやる。

　キーボードを叩きながら適当に耳を傾ける程度の俺にすら、中盤で真相が読める三流ストーリー。そんなものも見抜けないアホが「何言ってるの!?」と俺に向かって目を尖らせた。

「奥さんが旦那さんを殺すわけないじゃないっ。愛し合ってたんだからっ！」

　お前こそ何言ってる。同じ土俵で言い返しそうになった自分を、俺は急いで引き摺り下ろした。

「むしろ真犯人が、奥さんが疑われるように仕向けてるんじゃないの？」

　背中を丸めてマグカップに口を付ける、脳内お花畑のアホ。美肌効果があるとかいう、赤い実をすりおろしたようなグレープ色のハーブティーが、酸味混じりの香りを緩く飛ばしてくる。