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私もサッとご飯を済ませ、食器をまとめてキッチンに運ぶ。
「……あれ?」
水切りラックの手前に、あってはならないものがあった。朝早く起きて、私が何を置いても一番に用意する、紺色の包み。
「もー、大地君ってばっ!」
包みを手に、私は家を飛び出した。
まだ近くにいますように。祈りながら、マンションのエレベーターのボタンを連打する。
硬質な扉が開いた直後、中にいた男の子と目が合った。
「あ……おはようございます」
「悠真君っ。おはよー」
会えばきちんと挨拶してくれる悠真君は、一ヶ月前に引っ越してきたばかりの、一つ上の階に住む小学生の男の子。
悠真君のパパとママは、夫や私と同い年。だから私も、素直で礼儀正しいこの子のことを、つい我が子のように可愛がってしまう。
「芽依ちゃん、今日も下で待ってくれてるの?」
「は、はい……」
幼い左手に握られた紙袋。そこからほんのり漂ういい匂い。
落ち着きなく目を泳がせる悠真君に、私の口はつい緩んじゃう。
「うまく渡せるように、応援してるね」
「が……頑張り、ます……」
他愛ない話をしてる間に、エレベーターがエントランスに到着した。
悠真君には悪いけど、私は先にエレベーターを出る。悠真君の相手は逃げないけど、私の相手は待ってくれないもの。
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