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幸い夫はまだエントランスにいた。地面にお尻をつけた、ツインテールの女の子と一緒に。
「悪かった。立てるか?」
「はい……大丈夫です」
「あ。手が少し切れ……」
「だ・い・ち・くんっ!」
座り込んだその子に手を差し伸べる気配があって、私はすかさず二人の間に割り込む。
目が合うなり、夫は眉と眉の間に深い渓谷を刻んだ。
「……何でお前がここにいる」
「こら、大地君っ。大事なお昼ご飯忘れてったでしょ!?」
「あ…………悪い」
たちまち渓谷を緩めた夫は、目を逸らしつつ私からお弁当を受け取る。
くふふっ。照れ隠しかわいいなっ。
「芽依ちゃんどうしたの!? 大丈夫!?」
「悠真君……」
遅れて駆けつけてきた悠真君が、芽依ちゃんに手を貸して体を起こしてあげる。だけど、その手のひらに滲む赤を見て、「た、大変っ」と芽依ちゃんをマンションの方へ引っ張った。
「僕の家に上がってって。学校行く前に、お母さんに手当てしてもらおっ」
「そんなのいいよ。学校遅れちゃ……」
「今は芽依ちゃんの手当ての方が大事!」
普段おとなしい悠真君が、声を荒げて強引に芽依ちゃんを連れていく。
悠真君、頑張れ。声にしないまま、遠ざかる背中にそっとエールを贈る。
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