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惰性な関係
「あの言い方は酷いよ」
あんな事があった後なのに、彼氏は私が買って来たお弁当を食べながらプリプリ怒っている。
「酷いってなにが」
「俺のこと捨てようとしたじゃん」
「最初に捨てたのはあんたでしょ」
「なっ! そんなわけないでしょ。俺は遊びと本気の区別はつけてるんだから!」
「ちょっと! 食べながら怒鳴らないでよ。汚いな」
色んな細かい物体が飛び散るのもお構いなしに、邪険にする私の腕を掴んでにじり寄ってくる。
「そろそろ結婚しようよ」
「いや」
「なんでっ?!」
もう何度聞いたか分からない台詞に即答すれば、顔を歪めて叫び出す。いやいや、あんた阿呆なの?
「普通さ、結婚したい女がいるのに浮気するかな」
「えーちゃんは男に夢見過ぎだよ。男は好きじゃなくても、おっぱいのついたいやらしい身体の女に興奮するものなんです。ただの生理現象だよ。だからアレは浮気じゃない」
とうとう訳の分からない理論を持ち出して来た。
言い訳や開き直りの次がコレとは。
丸め込めると思っているのなら、とんだおめでたい思考だと思う。
「ああそう。じゃああんたも女に夢見過ぎだよね。彼女以外の女に突っ込み癖のあるゲス野郎を許し、ハーレムの一員になり、尚且つ結婚するパッパラパーはエロ漫画やエロ小説の中だけだよ」
現実に生きている女は、誰かと彼氏や夫を共有するなんて無理だから。それに、
「異性の身体に興奮するのが男だけだと思ったら大間違いだからね。私だって鍛えた身体を見れば触りたくなる。抱かれてみたいと思うよ」
女にも生理現象はある。欲もあるのだ。
「なんだって?! えーちゃん浮気したの!」
「するか。あんたと一緒にすんな」
「だって今、抱かれたいって言った!!」
「言ったら何? 口にするのと実際に行動するのは別でしょうが。私は相手がいるのに不誠実な事はしないよ。だから別れてくれる?」
「いや! 俺はえーちゃんが好き! 冗談でもそんな悲しいこと言わないでよ」
「私は好きじゃないし冗談でもない」
愛はすっかり砕け散っている。
砕いたのは小賢しい泣き真似をしているクズ彼氏なのに、言っても聞かない。聞く耳も持たない。おまけに別れてもくれない傍若無人ぶりを発揮する。
「やだな、えーちゃん。遊びの女を連れ込んだから怒ってるの? ごめんね。もうしない。身体を鍛えたらもう一度好きになってくれるよね。頑張るよ」
ふざけたことを抜かすな。
毎回毎回、だらしない下半身事情を突き付けてくるクズ彼氏が、身体を鍛えたところで何の意味もない。
だけど。
煩いバカと振り解けない。
腐れ野郎、地獄に堕ちろ、性病になっちまえ、と思っているのに、振り解けなかった。
答えは分かりきっている。
七年の情が惰性となっていた。
問答するのが面倒、引っ越すのが面倒、新たな恋をするのが面倒、裏切られて傷付くのが面倒。
とにかく、何もかもが面倒になっていた。
彼氏に振り回されて、気持ちの乱高下が激しくて、負の感情を七年も抱え続ければ、疲れ果てる。
その果てに辿り着いた無は自己防衛の賜物だ。
だから浮気も未来を望む声も、彼氏の全てをスルー出来ている。受け流せている。
今回は失敗したけれど。
誰かこのクズ野郎を貰ってくれないかな。
面倒くさいから別れを言うだけで実行しない私は、ずっとその時を待っている。
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