君を殺す、二本目の矢 ( クズ彼氏編 )

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君を殺す、二本目の矢 ( クズ彼氏編 )

それからの絵梨花は、俺の機嫌を損ねないように従順になって、意志の欠片もない人形のようになってしまった。 作られた笑み。 さほど嬉しいことでもないのに、無理して大袈裟にはしゃぐ姿。 前までは嫌だった子供扱いをすっかり辞めて、俺を異常なほど立ててくる。 イライラ、イライラ、気に障る。 姉御肌や、面倒見の良い気遣いでさえ、妙にへりくだった態度に感じて鼻につき、また悪意をぶつけたくなっていた。 そんな事しなくても別れたらいい。 さっさと離れたら済む話しだ。 周囲からも、いつまであんなブスに構うつもりだよ、もっといい女はいるじゃん、などと囃し立てられて、そうだよな、分かってるよ、と笑って答えながらも絵梨花と過ごしていた。 あと少し。 もうちょっとだけだから。 誰に何を言い訳しているのだろう。 自分の気持ちなのに分からないままで。 「いつもの場所な。絶対に来いよ」 乗り気じゃない。 別に抱きたくもない。 だけど悪友の誘いに乗らないと変に思われる。 学生時代から続く下劣な合コンに参加して、昔と同じように振る舞って、さも女遊びが大好きなクズに成り下がり、少しも魅力を感じない股の緩そうな女と一夜を共にした。 俺は一体何をやっているんだ? 目が覚めて、作業のように抱いた女が隣に寝てる事に猛烈な吐き気を覚えた。 すぐに立ち去り家に帰る途中、悪友の一人から連絡が入れば。 お前が言い出せない腑抜けだから、俺が代わりに背を押してやったぞ。後は上手くやれ。 と、笑い混じりに言われ頭が真っ白になった。 その言葉を理解したのに心が受け入れ難いと否定する。 怒鳴り散らしてやりたかった。 余計な事をするんじゃねぇと殴りつけたいぐらいに。 でもそんな暇はない。 構っている場合じゃない。 急いで帰れば、俺が帰らなかった理由を無理やり聞かされた絵梨花は顔を背けたくなるほど酷く憔悴していた。 隠すことも誤魔化すことも無理だと悟る。 何とか傷付けないよう言葉少なに事実を話せば、餓死するんじゃないかと心配になるぐらい物を食べなくなった。 俺といたら絵梨花は死んでしまう! 漠然とした恐怖。 こんな切羽詰まった状況なのに、分かっているのに、俺はまた間違えていた。 たったひと言を言えばいいだけなのに別れが言い出せない。 言えなくて、どんどん最初と変わっていく絵梨花の様子に狼狽えて、何とかしなくちゃ、早く別れなきゃと気が急くばかり。 焦っていた。 目先の事に囚われていた。 言い出せない時点で気付けば良かったのに、遊んでばかりで恋や愛を知らない俺は自分の本当の気持ちに気付きもせず、絵梨花からの別れを引き出そうと浮気を繰り返す。 そこからは、想像を絶する苦しみが待っていた。 男は意外に繊細な生き物で、ヤリたくないのに己を奮い立たせる辛さや、全然気持ち良くないのに腰を振りたくって吐き出す行為に、虚しい、何だコレ、しんどいだけじゃないか、と心が荒ぶる。 早く俺を捨ててくれ!! 捨てられる為にしていた浮気、したくてしているわけじゃないのに、下衆な発言までして捨てられることを画策する卑怯な俺は、表情を少しも変えず能面のようになっていく絵梨花に死にそうな気持ちになっていた。 そしてやっと。 望んでいた言葉を吐かれた時。 俺は即「うん」と「そうしよう」と言うつもりだったのに、喉を突き破る勢いで飛び出したのは。 「嫌」という、考えもしなかった否定。 言った後で、なんでそんな事を、と我に返ったけれど、俺の意志に反して頑なに「嫌だ、絶対に」と口が譲らなかった。
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