ぴりかちゃんダイアリー

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今日  今日は今日。あたしはそれしか知らない。そんな感じ。 今日  今日も今日。ママは今日も泣いている。 今日  今日も今日とて今日。パパは泣いてるママを慰めてる。 今日  今日といえば今日。最近、ママの口癖は「ごめんね、ぴりかちゃん」。ぴりかちゃんってのが、あたしの名前。 今日  今日という今日は今日である。パパは泣いてるママにため息をつくようになった。 今日  今日、しかしながら今日。「泣く」ってどんな感じなんだろう? あたしにはわからない。 今日  今日しかないから、あたしの今日。パパは「そんなんじゃ、ぴりかちゃんが」と言いかけてやめる。あたしが一体、なんなのかな。 今日  大きな揺れが、何度も来ている。パパはおろおろ落ち着かなくて、ママは泣くのをやめた。  揺れの間隔は狭くなり、あたしは「ここ」から追い出された。やだよ、やめてよ。ここにいたい。  あたしの気持ちと関係なしに、あたしは「そこ」にいられなくなった。なにも見えない。  だけど、頭からまばゆいものが注いでいるのがわかったわ。  知ってる。この眩しさを 光 というの。  パパとママが、あたしにつけた名前とおなじ。 「ぴりかちゃん、ひかり、光ちゃん」  ママがあたしを呼んでいた。 「ひかりー! ひかりー!!」  パパもあたしを呼んでいた。  今日も今日も今日も見ていたふたりの姿が、いまは見えない。だけど、ママもパパも、泣いている。  それだけは、はっきりわかるわ。  パパ、ママ。  ふたりじゃない誰かが、あたしを抱いていた。  ママ、パパ。  ふたりを呼びたくて、大声をあげたの。 「おめでとうございます。かわいい女の子ですよ」  ふたりじゃない誰かが、そう言った。  ああ、そうなんだ。あたしは思った。ここは、今日だけじゃないのねって、わかった。「きのう」も「あした」もある場所。それが、「ここ」なんだ。  そうして、あたしはうまれてはじめて、泣くってことを知ったの。
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