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しばらく沈黙が続いた。俯きながら話そうかどうか迷っているのだろうか。その姿を見ているうちに、自分の探究心だけ優先させて、香織を追い詰めている事に気づいた。
「よし!もう遅いし寝ようか」
最低だ俺は。知りたい知りたい・・そこに優しさはあると言うのか。もし自分が答えにくい質問をされたら逃げ出すだろう?香織はそれをしなかった。
もう十分だ。
「ちゃんと・・いつか・・話します」
そう言うと香織は部屋を出て行った。
泣いていただろう。後を追うべきか。
だがそうしたのは俺だ。傷つけたのは俺だ。
「何やってんだ俺・・」
つくづく思う。俺は人と接するべきではない。
相手の気持ちに立つ事をせず、空気を読む事を
しようとしない。最低限必要なコミュニケーションスキルが備わっていないのだ。
頭痛がするほどに自己嫌悪に苛まれる。
こういう時は決まって両眼の奥が痛む。
何度繰り返せばいいのだろう。
「逃げちゃった・・」
香織は自分の部屋のドアを勢いよく開け、滑り込むように入り、また勢いよくドアを閉めもたれかかった。
「ダメだなぁわたし」
雄大さんになら話ても良かったと思う。
これまで誰にも話そうなんて思わなかったのに不思議だった。
それでも逃げてしまったのは、やっぱりまだ怖かった。嫌われる。きっと。汚い女だと思われる。
「明日ちゃんと謝ろ・・」
シャワーを浴びながら嫌なことを思い出していた。
心の奥底に閉まってある記憶。思い出したくなくても突然脳裏をよぎり、そのたびに暗い海の底へ沈んでしまう。
いつか忘れられるだろうか。
それとも忘れちゃいけないんだろうか。
私だけ過去を捨てて逃げていいんだろうか。
こんな思い、何度繰り返せばいいんだろう。
ピンポーン
ん・・だれ?こんな時間に・・
インターホンカメラには雄大が写っていた。
「ゆ、雄大さん!?どうしたんです??」
びっくりした。すっぴんのまま、パジャマのままだけど。それより昨日の事があった矢先だし、もしかして怒ってるんじゃ・・
「寝てたよな。ごめんね。気晴らしに映画とかどうかなって・・」
映画!?今から??
まだ朝9時だよ!?
「え、映画ですか!ちょっとだけ待ってください!
急いで用意します!」
びっくりした。まさか雄大さんから誘ってくるなんて。とにかく急がなきゃ!待たせちゃう!
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