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気がついたら夜中の1時になっていた。
香織の高校を辞めた話の詳細に辿り着くまでに
語られた内容は、4人でいられた時間が香織に
とって大切な思い出だと言う事は良くわかった。
では何故、香織は高校を辞めたのか。
親友とも呼べる繋がりがあった友がいて、
青春していないと言っていた割にアオハル全開に
しか聞こえないエピソードの数々。
よほど重大な出来事が高2の夏に起きたのだろう。
香織の人生を変えた事件が。つうかこんな煽って大丈夫なのか・・。
「高校を辞めた理由はつまんなかったからです」
そらみろ。普通じゃん。
高校つまんないから辞めるってどうよ。
良くある話じゃん。あっそうなんだで終わる話じゃん。
「・・高2の夏までは物凄いjkエンジョイしてたと思うんだけど。何かあったんじゃないの?」
「うーん・・高2の時にクラス替えがあって。私だけ違うクラスになっちゃって」
由紀さん!紗奈さん!楓さん!繋がりが強そうだったけど実は上辺だけ仮面友達すか。クラスが変わったくらいで溶ける絆などこちらから願い下げだ。
しかし高校生活と言う狭い世界の中ではクラスメイトと言うのは大事な繋がりであるかもしれない。
離れてみて初めてわかる絆の強さを試されて、仮面友達であった事実に気づいて香織がショックを受けた・・のかも。
「夏休みが開けてすぐでした。退学届を出したの。親に一切相談せずに。もうそこからずっとお母さんと毎日喧嘩、喧嘩で。」
「3人には相談しなかったの?」
そう聞くと一瞬、香織の肩が震えた気がした。
俺の質問を他所にそこからは神妙な面持ちに変わり両親との確執の話へ移った。
嘘だ———
そう直感した。つまらないから辞めたのではない。
何かがあったのだろう。しかし誰にでもどうしても言いたくない事もある。無理に聞き出すほど俺たちの絆はまだ強くないだろう。
両親との確執は香織の話を聞く限り、娘を心配している事が伝わるいい話であった。香織もそれを理解していて、きちんとお互いに話し合えば氷解するだろう。
若さ故と言うやつで勢い余って家を飛び出し、横浜の賄い付きの中華料理屋で働きながら、店主が用意してくれた寮で生活をしていたらしい。
なるほど料理が上手な訳である。昼は遅くまで仕事をし、寮に帰ったら真夜中過ぎまで勉強をする生活。休みの日も友達がいない事もあって1日中勉強していたらしい。
血の滲む様な努力の末に大検を取り、目標の大学へ進む為に日夜机に齧り付き、やっとの思いで入学を果たした訳だ。何と素晴らしい素敵なサクセスストーリーだろう。
「勉強大嫌いだったんですけど、いざやってみると楽しいんです!知識がこう増えていくと知らなかった世界が開けるってゆーか!」
勉強が楽しいなんて思ったことのない俺からすると羨ましい限りです・・情け無い大人である事をここでも実感させられてしまう。
「でもどうして大学行こうと思ったの?」
素朴な疑問だった。今までの話の中で、夢とか就きたい仕事の話なんかは出て来なかったはずだ。
きっかけは動機に繋がる。
話を聞いた限りでは動機がないとは考えられない。なんとなくで1番遊びたい盛りの子が様々な欲求を跳ね除け、勉学に勤しむなどあり得ないのではないか。
「それは・・」
香織は俯いて床を見ていた。この子は分かりやすい。言い出しにくい話や、話しにくい話をする時、必ず俯いて視線が通うのを避ける。
話したくないなら無理しなくていいよと言うところだが、ここは黙って香織に任せる事にした。きっと今の香織を作る重要な要素だ。どうしても聞きたかった。
「医者になろうと思って」
香織は勇気を振り絞るように、両手をぐっと握り声を少し振るわせながら言った。
医者・・。なるほど通ってたのは比較的アパートの近くにある国立医大か。すると香織はかなりの偏差値ではないか。並大抵の学力では入れまい。
「医者に?どして?」
医者になりたくて必死に勉強して努力したのに、諦めざるを得なかったことまで知っているのだ。なぜ医者を目指したかを聞くのは酷だろう。
そう思っても聞かずにいれなかった。
香織が抱えている物を少しでも降ろしてやるには、
過去に起きた出来事を知る必要があると思ったからだ。
恐らく高2の夏休みに起きた出来事に繋がるであろう、医者になりたいと思ったきっかけを。
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