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「何の映画にします??観たいやつあります??」
「アニメから実写化されたのがあって。観たいなと思ってたんだけど・・どうかな?」
「いいですよ!雄大さんが観たい映画は私も観たいです!」
なんつう可愛いやつだ・・
俺なんかとよく映画に行ってくれるもんだよほんと。すげー幸せな事なんだよなこれ。
昨日の事はまだ触れずにいよう。
ちゃんと謝らなきゃ。無神経だった。ほんと。
香織は楽しそうに窓の外を観ながら、色んな話をしてくれた。コンビニだとローソ○が好きだとか、
自転車に乗れるようになったのは小6になってからだったとか、映画を観る時はポップコーンよりチュロスがいいだとか
デートみたいだなと思っていた。
お嫁さんになります発言から色々あったが、勘違いして浮かれているのは今が初めてだ。
こんな綺麗で可愛いさも持ち合わせて、料理も上手な子が俺なんぞのお嫁さん?そんな強運を引き当てる自信などどこにもない。
こうして一緒に映画に行けるだけでも、残りの人生の運を全て使いきっているかもしれないんだ。
ありがたやありがたや・・
「映画観る前にごはんにしませんか!?」
「そうしようか。お腹空いたよね」
「はい!やったー!」
オシャレなカフェや、レストランがいいと言うと思ったらファミレスがいいらしい。
「安いしいっぱい食べれるし!ファミレス大好きです!」
気を遣ってる様にも見えない。
この歳になるとどうも疑り深くなるというか
相手の言動を真に受けない様にしようと、
一枚フィルター越しになってしまう。
香織は素直に接してくれていると思う事が怖いのだ。好きになってしまうかもしれない。本気になってしまうかもしれない。
もう恋愛はしたくない。
疲れたとか諦めたとは違う。いい歳して傷つくのが怖い。傷付かない恋愛などない。だから逃げる。
傷付いても一緒にいたいとお互いに思う事が
素晴らしい事だと分かっていても逃げるんだ。
「えーと・・どうします??朝からエビフライとハンバーグとかどうですか!?」
「いいねぇ!じゃあ香織はヒレカツ丼とかどう?」
「うわー!朝からお互い食べますねぇ!」
楽しい。香織の笑顔を見てるだけでも楽しい。
映画じゃなくてもよかった。ただ、香織と一緒にいたかった。
・・それってもう恋してますやん。
ついさっきもう恋なんてしない的な件あったよね。
今更、思春期全開とか青春するにもほどがある。
「ドリンクバー取ってきます!何がいいで・・
私のセンスに任せてくださーい!」
香織は嬉しそうに早足でドリンクを入れに行った。
センスを試すには絶好の機会だ。相性がわかるかもしれん。
「はい!」
香織が差し出したのは黒いシュワシュワのあれだ。
「センスの塊か!」
「やったー!アイコにするか、ホットかなとか考えたんですけど、ここのペプ○だったから!」
なぜ俺がペプ○愛飲者だと知っているんだろう。
「アパート近くの自販機でペプ○買ってるの何回か見てて!あー好きなんだなーって!」
まじかよ俺は外で香織を見たこと一度もないよ??
結構な頻度で買ってはいたけどさ。
「そうだったんだ!見られてたとは・・」
「自転車で良くローソ○行ってるとか、お気に入りのラーメン屋さんとかカレー屋さんとかも!」
な、なんだって・・
「ま、まじ?」
「はい!じーって。見てます」
嬉しそうにそう話す香織だが、軽いストーカーには違いあるまい。こんな事を初デートでカミングアウトされたら、さくらんぼ高校生あたりならドン引きしているかもしれない。
「香織って変わってるよね」
「そうですか??旦那を監視するのは嫁の務めですから!」
顔をふにゃふにゃにし、嬉しそうにヒレカツ丼を食べる香織を見ながら、俺は思ってしまった。
禁断のあれを。
———こいつ、俺のこと好きなんじゃね?
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