39歳で青春するのはダメですか

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「何の映画にします??観たいやつあります??」 「アニメから実写化されたのがあって。観たいなと思ってたんだけど・・どうかな?」 「いいですよ!雄大さんが観たい映画は私も観たいです!」 なんつう可愛いやつだ・・ 俺なんかとよく映画に行ってくれるもんだよほんと。すげー幸せな事なんだよなこれ。 昨日の事はまだ触れずにいよう。 ちゃんと謝らなきゃ。無神経だった。ほんと。 香織は楽しそうに窓の外を観ながら、色んな話をしてくれた。コンビニだとローソ○が好きだとか、 自転車に乗れるようになったのは小6になってからだったとか、映画を観る時はポップコーンよりチュロスがいいだとか デートみたいだなと思っていた。 お嫁さんになります発言から色々あったが、勘違いして浮かれているのは今が初めてだ。 こんな綺麗で可愛いさも持ち合わせて、料理も上手な子が俺なんぞのお嫁さん?そんな強運を引き当てる自信などどこにもない。 こうして一緒に映画に行けるだけでも、残りの人生の運を全て使いきっているかもしれないんだ。 ありがたやありがたや・・ 「映画観る前にごはんにしませんか!?」 「そうしようか。お腹空いたよね」 「はい!やったー!」 オシャレなカフェや、レストランがいいと言うと思ったらファミレスがいいらしい。 「安いしいっぱい食べれるし!ファミレス大好きです!」 気を遣ってる様にも見えない。 この歳になるとどうも疑り深くなるというか 相手の言動を真に受けない様にしようと、 一枚フィルター越しになってしまう。 香織は素直に接してくれていると思う事が怖いのだ。好きになってしまうかもしれない。本気になってしまうかもしれない。 もう恋愛はしたくない。 疲れたとか諦めたとは違う。いい歳して傷つくのが怖い。傷付かない恋愛などない。だから逃げる。 傷付いても一緒にいたいとお互いに思う事が 素晴らしい事だと分かっていても逃げるんだ。 「えーと・・どうします??朝からエビフライとハンバーグとかどうですか!?」 「いいねぇ!じゃあ香織はヒレカツ丼とかどう?」 「うわー!朝からお互い食べますねぇ!」 楽しい。香織の笑顔を見てるだけでも楽しい。 映画じゃなくてもよかった。ただ、香織と一緒にいたかった。 ・・それってもう恋してますやん。 ついさっきもう恋なんてしない的な件あったよね。 今更、思春期全開とか青春するにもほどがある。 「ドリンクバー取ってきます!何がいいで・・ 私のセンスに任せてくださーい!」 香織は嬉しそうに早足でドリンクを入れに行った。 センスを試すには絶好の機会だ。相性がわかるかもしれん。 「はい!」 香織が差し出したのは黒いシュワシュワのあれだ。 「センスの塊か!」 「やったー!アイコにするか、ホットかなとか考えたんですけど、ここのペプ○だったから!」 なぜ俺がペプ○愛飲者だと知っているんだろう。 「アパート近くの自販機でペプ○買ってるの何回か見てて!あー好きなんだなーって!」 まじかよ俺は外で香織を見たこと一度もないよ?? 結構な頻度で買ってはいたけどさ。 「そうだったんだ!見られてたとは・・」 「自転車で良くローソ○行ってるとか、お気に入りのラーメン屋さんとかカレー屋さんとかも!」 な、なんだって・・ 「ま、まじ?」 「はい!じーって。見てます」 嬉しそうにそう話す香織だが、軽いストーカーには違いあるまい。こんな事を初デートでカミングアウトされたら、さくらんぼ高校生あたりならドン引きしているかもしれない。 「香織って変わってるよね」 「そうですか??旦那を監視するのは嫁の務めですから!」 顔をふにゃふにゃにし、嬉しそうにヒレカツ丼を食べる香織を見ながら、俺は思ってしまった。 禁断のあれを。 ———こいつ、俺のこと好きなんじゃね?
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