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小説を書く事自体は難しい事ではない。
難しいのは読んで貰える作品に仕上げる事だ。
自分で書いていて面白い、読者も読んで面白いと両思いにならねば小説とは言わない。
自分が面白ければいいだけであればブログと変わらない。そのブログを他人に読んで欲しいと思えば、どうしたら読んで貰える様になるかを具体的に具現化せねばならない。
それが小説であると俺は考えている。
自慰をするつもりも、見せるつもりもない。
だが、面白いと思うのは自分だけのようで
読者からの反応は今のところない。
完全に行き詰まりである。
39歳のおっさんが青春する話はやはり受け入れにくい題材だったのだろうか。
違う。内容がつまらないだけだ。
僻地の流行りラーメン屋の法則を思い出す。
面白ければ自然と読んでくれる人も増えるものだ。
俺の小説は面白くないのだ。ただそれだけだ。
「ぬぅ・・やはり厳しい世界だ」
折れそうになる事もある。しかし、諦めるなど
ありえない。まだ青春のひとつもしていないではないか。
それに俺にはお嫁さんがいる。19個年下で、街を歩けば誰もが振り返る美人で可愛い子が。
つか青春とか言ってないで、仕事を探すとか、就業スキルを上げるとか将来に備えた行動を取るべきではないのか。
「さ!書くぞ!」
一度やると決めたんならダメになるまで走り続けるべきだ。途中で投げたら逃げ癖がつく。もう逃げない。高い壁にぶち当たっても、真っ向から全力で向き合ってやる。
「雄大さーん!」
今日も元気な声が聞こえる。お嫁さんのご登場だ。
「やってますねぇ!コーヒー煎れますね!」
香織は俺の小説の一番の読者だ。
感想を聞くと、それはそれは面白い最高としか言わないので、全く参考にならないのではあるが、
背中を押してくれるだけで、十分モチベーションの維持に繋がる。
「そういやバイト決まった?」
香織は家賃捻出と生活費の為、バイトを探し始めていた。パパ活はもうしないつもりらしい。
「それがぁ・・なかなか見つからず」
俯いて下を見始めて背中を落としている
「まぁ焦らずにさ」
「ダメです!来月の家賃は自分で払います!」
頑固なとこあるんだよな・・真面目というか。
パパ活していた時も、身体を許した事は一度たりともなかったと聞いた。
当然、下心剥き出し男はいて、何度か危ない目に遭った様だが、お食事や居酒屋などで飲み食いしながら、愚痴を聞いたり、悩み相談を聞いたりしていたらしい。
相手は俺より歳上が当たり前だったらしく、
寂しいおじさんたくさんいるだって思いました
と香織はしみじみと語っていた。
というか自分の娘、下手をしたら孫の年齢の子に悩み相談をするって・・まぁ金の使い方は人それぞれだが、他にいい方法があるんじゃないか。
「まさか・・援してたと思っていたんじゃ?」
思ってました。つかパパ活てそうじゃないの??
「お、思ってないよ。香織はそんな子じゃないよ。」
香織がジト目をこちらに向けて睨む。
そう思っていたな最低!と言わんばかりだ。
「うーん・・飲食関係は拘束時間が長いし・・」
香織は求人サイトと睨めっこをしている。
出来るだけ近場で探そうと必死なようだ。
頑張る香織に後押しされて、俺も原稿画面に
向き直る。完走するぞ。何としても。やりきってみせる。
その時だった。
インターホンが鳴る予感がした。
誰だろう。
「はーい」
さも当たり前かの如く、香織が応対し始める。
キーボードを打ちながら玄関の方に耳をやる。
「今度、隣に引っ越してきた浅川と言います」
え??女の子の声がする
しかも隣に引っ越してきたって??
急いで立ち上がり、暖簾の隙間から覗くと
そこには香織に負けず劣らずの美少女が甲斐甲斐しく挨拶をしている姿があった。
「色々ご迷惑をおかけするかもですが、宜しくお願いします」
ぬおー!こんな奇跡ありますか!
向かって俺の部屋の右が香織の部屋。左は確かついこの前まで汚いおっさんの一人暮らし部屋だった気がする。
おっさんが退去した後に美少女が引っ越してくる確率はいかほどですか。現実なのかこれ。王道ラブコメみたいな展開だよこれ。
「あー!そうでしたか!実はここ俺の部屋でして!この子は隣に住んでる子なんですよー!」
神懸かった幸運に、完全に舞い上がって周りが見えなくなったおっさんに向け、ドス黒い殺気が突き刺さる。
しまった・・殺される・・
「そうなんですか!お隣同士で仲良くされてるんですね。是非私もお仲間に入れてください」
数秒後に殺人事件現場になるかもしれない空気を物ともせず、浅川さんは満天の星空にも負けない素敵な笑顔を見せていた。
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