34人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺に恋してみるとか?」
・・死にたい。
俺は何を血迷ったのか。
今時、ホストだってそんな臭い事を言えないだろう。
つうか39歳無職引きこもり青春ニートが
良く恥ずかしくも躊躇いもなく、十代のそれもSS級美少女に言えたものだ。
穴があったら入りたい・・
もうダメだ。玲奈ちゃんは香織に言うだろう。
香織は当然ドン引きだ。どうせなら怒り狂った香織にフルーツナイフで滅多刺しにされたい。
「玲奈ちゃんにも悪いことしたな・・」
臭いセリフの後、玲奈ちゃんは昼間と同じ様に、
だが今回は何も言わず部屋を出て行ってしまった。
そこから2時間。既に朝だ。
自分のしでかした事が恥ずかしすぎて全く眠れない。
1人の少女が変わるきっかけだったのだ。
それを吐き気がする様な一言で台無しにしてしまった。より男を信じられなくなったかもしれない。
ヤケになって毎晩違う男に抱かれる様になったら俺はどう責任を取るつもりなんだ。
玲奈ちゃんは助けて欲しかったんだ。
こんなおっさんにでも、理性と包容力を期待して、藁を掴む思いですがったのかもしれないんだ。
「くそっ・・情け無い」
寝れそうにない。そんな時は外に出る。
ゾンビが徘徊しだす前、午前4時。
ちょうどいい時間だ。これなら怖くない。
夕焼けより朝焼けが好きだ。
特に秋冬の張り詰めた空気に、ゆっくり東の空から光が溶けていく瞬間が。
まだ眠っている街。
静かに流れる時間。
薄暗い中を自転車を漕ぎながら、吐く息は白く、
俺は防波堤を目指す。
3kmも走るとそこは海だ。
整備された遊歩道。誰もいない小さな海浜公園。
この街に住み始めてから、ここに来るのは何度目だろう。
まだ仕事をバリバリこなしていた時も
気がつけばこの場所で朝陽を見ていた気がする。
無意識だったけど、俺がこの街が好きなのは、
あのアパートに住んでいるのは、この瞬間を見ることが好きだからかもしれない。
「はい!あったかいですよ!」
え?
「ここ。好きですね!私もです!」
香織・・
「どうして・・」
香織は缶コーヒーを俺の手に握らせて、その上から両手で包み込み、上目遣いで
「だって。私、雄大さんのお嫁さんですし!しっしっし」
と笑った。
あぁそっか。俺、玲奈ちゃんとしなかったのは
香織がいるからだよな。この子がいてくれるからだ。簡単な事じゃないか。好きなんだ。香織が。
「わぁお!だいたん!」
香織を目一杯抱きしめていた。
愛おしくて、可愛いくて。
香織も必死に抱きついてきてくれた。
小さな身体を目一杯使って。
「あったかいですね。冷たいコーヒーのが良かったかな」
何も言わずにただ抱きしめ続けていた。
離したくない。離れて欲しくない。
「もうすぐ朝陽・・みえますよ」
どんどん周りが朝陽に照らされ、明るくなっていく。俺の心臓にまで届きそうな優しい光だ。
そして何より、抱きしめた香織の体温が
ゆっくり俺の心を溶かしていく。
「雄大さん。私のこと。好きになりましたね??」
「あぁ」
香織の抱きしめる力がぎゅっと強くなったのを感じる。
「やりましたー!朝焼けサプライズ大成功です!」
最初のコメントを投稿しよう!