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今から5年前。俺には山邊里帆と言う彼女がいた。知り合った当初の年齢は18歳だった。女子高生だ。俺は年齢を偽り、25歳と言う設定にしていた。
出会いはSNSだった。何となくお友達募集をしていた里帆のアカウントに、俺からdmを投げたのが始まりだった。
お互いに顔は見せず、一年くらいネットでのやり取りだけで繋がっていた。ネッ友のつもりだったから、嘘も平気で付いていたし、会おうなどと考えた事もなかった。
なにせ里帆が住んでいたのは福井県だ。遠過ぎたし、高校生だったし、里帆の中では俺は25歳だし。
今考えると、その間、ビデオ通話を一度もしなかった。無論、知らなかった訳ではない。なぜかお互いに声を聞いているだけで、満足していたのかもしれない。
それが急激な変化をみせたのが、里帆が高校を卒業する直前の2月だった。彼女は大学には行かず、地元で働くと言っていた。だが、12月になっても1月になっても就職先が決まったという話を聞かなかった。
それが少し気になり、仕事決まった?と聞いた時、就職先全然ないの一言だけ返ってきてその話は終わってしまった。
それが明くる日、いきなり横浜に行くと言いだした。冗談だろと思っていた。荷物送るから住所教えてと。ネット繋がりではあったが、一年もの間、何千時間通話したかわからない。ひょっとしたら里帆の連れより話した時間は長かったんじゃないかと思う。
3月に卒業式を終えた翌日、俺の部屋に大量の段ボールが届いた。送り主は山邊里帆だった。本気でこっちに来るつもりらしい。というか、荷物が到着するのと同時に里帆からLI○Eが届く。
「新幹線乗りました」
どうしよう。恐らく25歳の超イケメンを想像している事だろう。改札を通過して会った瞬間に引き返したくなるのではないのか。
喩えようのない不安に襲われる。嘘を付きすぎていて、何を言ったか覚えていないし。ネットのみで繋がる関係だと割り切っていたのに、どうしてこうなった。
逃げようか。ダメだ住所を知られている。LINEだけでなく、携番も教えてある。逃げきれない。むしろそんな発想しか出てこない自分に腹が立つ。
ここは潔く、男らしく。覚悟を決めて自撮りを送ろう。こんな格好で改札出口にいますと。その写真を見て、引き返したのであれば仕方あるまい。
軽く震えながら自撮りを何枚も撮影し、ちょっとでもよく見える一枚をチョイスして里帆に送った。
すぐに既読がつく。返信が来るまでの数分、生きた心地がしなかった。
「私はこんな感じです」
その一文の後、すぐに送られてきたのは、新幹線車内で撮影された、初めてみる里帆だった。関西っぽいオカメ顔で、とても可愛らしい。
「そういうのいらないですよ・・今カノに向かって元カノ可愛いとか言います普通・・ほんと殺しますよ?」
ガルルルと聞こえてきそうだ。今にも噛みつくぞと言わんばかりの狼顔をして香織が怒った。
「ご、ごめん」
湘南からの帰り道。思った通り、国道1号線は大渋滞だ。おかげで俺の過去話をさせられるハメになった訳だが・・
「それで!無事に出会えたんですか?」
香織は目が笑っていない。この話を始めてからずっとだ。本当は聞きたくないだろう。でも、俺の事を考えて、必死に我慢して耐えているのだ。
「う、うん」
「それはそうですよね。出会えてなきゃ付き合うなんて出来ないし。あっお突き合いの間違いですよね!あはは!んで出会ったその日にいきなり3連戦ですよね!雄大さん変態痴漢強姦魔ですし!あはは!」
あー・・もうなんか面倒くさい・・
「早く続き聞かせてくださいよ!気になります!あっ!次、元カノ可愛いとか言ったらプラスドライバーで鼻抉りますね!」
誰か助けて・・
新横浜駅篠原口改札
俺たちが初めて出会った場所だ。福井からわざわざバスに乗り京都まで行き、そこから生まれて初めて新幹線に乗って彼女はやってきた。
「雄大!」
里帆は笑顔で駆け寄ってきて俺に抱きついた。
嘘だろ・・実物を見ても引かないのか?もしかして25歳に見えてるのか?
「会いたかった!迎えに来てくれてありがとう!」
里帆は俺の胸に顔を埋めながら、嬉しそうにはしゃいだ。その姿を見て、急激に俺の中で何かが弾けた。
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