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玲奈ちゃんが帰った後、香織から執拗な尋問を受け続けている。昨日、あんな感動的な出来事があった直後にも関わらず、自分がいない隙に、女を部屋に連れ込むなど言語道断だと・・
仰る通りです。本当、どうにかしていた。自分でも気付かない内に、相当性欲が溜まっているようだ。しかし、この歳になっても理性が性欲に負けるとか恥ずかし過ぎる。
それにしても、玲奈ちゃんの突飛な行動には警戒しなければなるまい。若さ故の暴走なのか、意地悪しているだけか。
「ちょっと!聞いてますか!?」
「はっはい!もちろん!」
「もう!私、怒ってるんですからね!」
「ほ、ほら!香織は笑った方が可愛いよ」
ほんと玲奈ちゃんをなんとかせねば・・
いつか香織も本当に許せなくなる日が来てしまうだろう。
「私、何してんだろ・・」
玲奈は雄大の部屋を飛び出し、自分の部屋に入って、ドアを閉めた途端に力が抜けて、その場に座りこんだ。
自分でもよくわからない感情だった。
寂しくて誰かに側にいて欲しいなら、ネットですぐにいくらでも見つかる。ちょっと隙を見せればホイホイ釣れる。
でも、あの日。雄大に後悔すると言われた時、その言葉が妙に耳に残った。今までも、同じような事を言う男はいた。その時は、説教かようぜぇと思っていたのに。
包容力ってやつかも。
本当のところ、付き合うなら年上がいい。おじさまが好きなのも本当だ。父親の影を追っているだけとか良く言われるけど、そうじゃない気がする。
ガチャガチャしてたり、ザワザワする場所や人付き合いが苦手だ。落ち着ける場所や、一緒にいておだやかに過ごせる人がいい。
それは物心ついた時からそうだった。小学校低学年の時から、遊ぶのは高学年生や中学生ばかりだった。ませていたのかも知れないけど、それが変だとは思っていなかった。
中一の冬に、初めてできた彼氏も大学生だった。
そして付き合って2回目のデートで無理やり犯された。その後も同じ様な感じだ。高校生と付き合っても、社会人と付き合っても、みんなやる事しか考えないクズばかりだった。
自分でも汚れた女だと自覚していたし、こんな女でも必要とされてるならって身体を許してた。ついにはやり捨てられても平気になっていた。
高2になってからは援をするようになった。どうせやるなら金を取ろう。金の為なら、大抵のことは我慢できる。SNSで募集をかければ、数秒で腐るほどDMがきた。相手を探す事に困る事は一度もなかった。
そんな時に一人のおじさんに出会った。歳にしたら60近くだったと思う。SNSでやり取りをしてる時、一緒にご飯を食べてくれたらそれだけでいいと言っていたから、少し怪しいなと思いながらも、楽でいいやとも考えていた。
実際に会うと、本当に居酒屋に行っておしゃべりをしただけでお金をくれた。援をしていて、また宜しくねと初めて私の方から言った。
それから週一で会うようになっていた。おかげで援をする事も無くなったし、不思議と寂しさも感じなくなっていた。実はおじいちゃんと会うのが、楽しみだったのかもしれない。
高校卒業までその関係は続いた。私は川崎の専門学校に進むから、おじいちゃんとはもう会えないと伝えるつもりで、卒業式の日の夜に会う約束をした。
でも、約束の時間を過ぎても、おじいちゃんは来なかった。今まで一度もこんな事はなかった。何かあったのかもしれないと不安に襲われた。
2時間待っても来ない。もう帰ろうかと思った時、DMが届いた。おじいちゃんからだった。
【卒業おめでとう。玲奈はもう私がいなくても大丈夫だ。幸せになりなさい。祈っているよ】
ダメな私を、ずっと見守ってくれていたんだと初めて気づいた。優しさに甘えるだけ甘えて、私は何もしてあげられなかった。
止め処なく涙が溢れて仕方なかった。生まれて初めて、男の優しさと愛に触れた。そう思った。
あれから一度も男とやっていない。寂しさに負けて、自分を傷付けるのはもうたくさんだ。
それでも寂しくて仕方ない時がある。必死に我慢していたのに・・雄大に会って何かが変わった。
おじいちゃんが持ってた優しさを、雄大も持っている気がする。
さっき抱きしめられた時、心底安心している自分がいた。とっても暖かくて、とっても優しかった。
ずっとこうしていたいと思った。
やっと見つけたかも。本気で側にいたいと思える人を。場所を。見定めたい。雄大を。
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