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「何??どうしたの?刺しにきたの?」
突然、香織さんが部屋に来た。想定外だ。見た目と違い意外と行動力があるんだなと感心する。正直なとこ、この人は私なんかより全然可愛い。
二重人格気味という致命的な弱点がなければ、私なんかじゃまず叶わない。勝負にすらならない気がする。家事もこなして、料理も出来て、美人で可愛くて、おっぱいもでかい。神様はいつだって不公平。
「ち、違うよ!ちょっと・・話しがあって」
もう雄大に構わないで!とか、部屋にこないで!とかなら毎日話してる。違う話?なんだろ?
「・・上がります?」
自分の部屋に人を入れるのはいつ以来だろう。友達らしい友達がいなかったのもあるけど。
「お邪魔しまーす」
「適当に座って!コーヒーでいい?」
「うん!」
やっぱ叶わないよな。私、靴揃えないし。立ち振る舞い一つ一つが可愛いらしい。女の子って感じがする。悔しい。でも羨ましい。
「それで話しって?」
恥ずかしそうに顔を赤くしてもじもじしてる。男はやっぱりこういう子が好きなんだろう。私も香織さんみたいだったら、ちょっとは明るい人生を過ごせたんじゃないかな。
「それがね・・えーと・・」
「雄大の話?」
「そうなんだけど、ちょっと違くて!」
「違うんだ」
「あの・・クリスマスってどうしたらいいの!?」
へ?クリスマス?
「クリスマス?なんで?」
「雄大さんがクリスマスどうするー?って聞いてきて、私、男の人とクリスマス過ごしたことなくて!」
「・・何それ。のろけ?」
「ち、違うの!ほんとにわかんなくて・・どうしたらいいか教えてくれないかなって・・」
クリスマスに彼氏と過ごした事。私もないんだけど。稼ぎどきくらいにしか考えた事ないし。夕方からSEXして、気づいたら朝になってた事はあったかも。相手の顔も名前も覚えてないけど。
「高いホテルでディナーして、ケーキ食べて、シャンパン飲んで、プレゼント交換して、朝までSEXしたらいいんじゃない?」
よくあるシチュエーション。私なら絶対しないやつ。でもそんなんしか思いつかない。
「や、やっぱり・・そうかな。SEXするよね」
「普通するんじゃない?したくないの?」
「し、したくない訳じゃないよ!したい・・ような出来ない・・ような」
ん?まさか・・
「えっ待って。雄大とやってないの?」
顔から湯気が出そうなほど、顔を赤くして固まっている。うそ・・ほんとにやってないの??雄大が童貞な訳ない。あんな優しい抱擁が出来て、熟れた耳舐めが出来る童貞がいたら、好きなだけやらせてあげるわ。
「や、やって・・ないよ。キスはしてるけど」
中学生じゃないんだからキスくらいで事後報告されても。
「なんで?処女?」
何気なく出た一言だった。悪気などない。
一気に血の気が引いたのがわかる。さっきまで血色が良かった顔色もみるみる青ざめていく。なるほど。何かトラウマがあるんだ。SEXに。
「・・処女じゃ・・ないよ」
「何かあったんでしょ?」
しばらく沈黙した後、香織さんが途切れ途切れになりながらも、自身の過去の話を語りだした。思い出すのも辛いだろう重く、切ない昔話を。
————2時間くらいだろうか。
香織さんの話をただ、黙って聞いていた。そうする事しか出来なかった。もし、私が香織さんだったらどうしただろう。そればかり考えた。
雄大にはまだ言わないでと言っていた。勿論、言うつもりはない。この話を聞いて嫌われたくないとも言っていた。
でも、私はそうは思わないけどな。
雄大は聞いてもたぶん、優しく抱きしめて、頭を撫でて大丈夫だって言う気がする。
それは香織さんには言えなかったけど。
怖いのは怖いだろうな。雄大が汚れた女だと思うんじゃないかって考えても不思議じゃない。
実際、私の話を聞いても、全くそんな感じにはならなかったし。むしろ、やろうとしてたし。良く考えたら雄大も私を都合の良い女だと思ったんじゃ!
でも・・香織さんの場合は私とは違う。
友達も絡む話だ。それに私と違くて自分の意思ではない。寂しくてとか、忘れたくてとかそんな情け無い理由じゃない。
「何て言ってあげるのが一番だったのかな・・」
一通り話し終わった後、深く深呼吸をして
「ごめんね!暗くなっちゃった!忘れて!あっでもクリスマス大作戦は一緒に考えてくれたら嬉しい!」
そう言って香織さんは部屋を後にした。私はただ見送るしか出来なくて、それからずっとベッドで横になって悶々としている訳で。
「うーん・・。ほんっと同性の友達いなかったからな・・相談されたのなんか初めてで・・助けてあげたいけどどうしたら」
受け止めなきゃ。香織さんも誰にも相談出来なくて苦しんでたんだ。きっと。辛いのにあんなに頑張って話てくれたんだから・・。
「友達ってこんな感じなのかも」
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