39歳で青春するのはダメですか

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 今日は久しぶりに1人での外出だ。書いている小説も結構な長編になってきたはいいが・・いかんせんPVが増えない。それは全く。増えない。  内容が面白くないからだと言われたら、その通りですねとしか言えないんだが。ここはポジティブに、本を手にって貰うにはまず見た目だ。と考え、表紙イラストを描いてくれる人を探していたのだ。  SNSで素敵なイラストを書いている方を見つけ、コンタクトを取ったところ、是非、色々お話しをさせて下さいと返事が来た。サンプルを見せて貰うと、イメージしてた通りの世界観描写だった。  ネットのやり取りだけで完結するつもりだったのだが、直接会ってお話しがしたいと言うので、正直なところ超行きたくないのだが、止む無く外出する事になった訳だ。  「まぁ・・文面じゃ伝わらない事もあるか」  指定された待ち合わせ場所は、川崎駅の改札口だ。目印は時計台。あぁ川崎駅をよくご存知の方らしい。非常にわかりやすくて助かる。  つか、依頼者がこんなおっさんだと知ったら引くだろうな。小説??書いてるの??その歳で??てな事になって、お断りしますとか全然あり得るからね。  どうしておっさんが何かにチャレンジする事がキモいと言う風潮が出来たのであろう。いつからだ。この国には男は30歳を過ぎれば、定職に就き、家庭を持ち、家を買い、落ち着いた生活をし、やがて布団の上で死んでゆく。それが常識と言う固定概念が蔓延っている。  冗談だろ。なんだそりゃ。くだらん。来世では本気出すとか、どこの転生物語だ。スライムにでもなってろ。おっさんだろうと、自分が好きな事やって生きて何が悪い。キモいのは殻を破れない貴様らだ。ふざけるな。  「高槻雄大さんですか?」  夢見るおっさん最高と自分を奮い立たせていると、目の前にそれはそれは愛らしい、それでいてやっぱいい匂いがする女の子が立っていた。  「・・あっそうです!真響さんですか?」  「はい!信濃真響です。お会いできて嬉しいです!」  ま、まじかよ。ネットでのやり取りをしていて、文面とか雰囲気で、何となく女の子かなとは思っていた。が、こんな美少女とか想定外にも程がある。 なんだこれ。香織と玲奈ちゃんより可愛い・・いや待て!香織が一番!香織が一番!香織が一番!香織が一番!香織最強!  「じゃぁ行きましょうか。すっごく行ってみたいお店があって。そこにしませんか?」  ぐぉーーー!なんだよ超可愛いじゃねーかよー! えっいいの?拙くね?こんなおっさんと美少女が一緒にいていいの?例えビジネスの関係だとしてもいいの?  「あっはい。行きましょうか」  川崎駅の西口は巨大ショッピングモールだ。東口には金龍街と言う名の商店街がある。昭和の川崎がまだほんの少しだけ顔を覗かせるアーケード街。    俺はそれが好きだった。現代と過去が一緒くたになって共存し、何か起きそうで、何か起こせそうなそんな場所。キャバクラやピンサロの入った雑居ビルの横に、ペットショップや魚屋さんなんかが平気で並んでるなんて、ここくらいの物だろう。  そこをおっさんと美少女が仲良く歩いているのだ。パパ活にしか見えまい。警察官に止められるやつだよこれ。お父さんちょっといいですか?って言われるよこれ。  「私、ここ好きなんです」  「あっ!一緒です。川崎と言えば金龍ですよ」  「ですよね!ここは色んな人がいます。行き交う人を見てるだけで、いいイラストが思い浮かぶんです」  なるほど。確かに。初々しい高校生カップルとか、いかにもヤクザですみたいなのとか、早足で店を出てホストに向かう風俗嬢とか・・。人間観察をするにはうってつけかもしれん。  「ほんとに絵を描くのお好きなんですね」  「はい。それくらいしか私には無いですし・・」  「え?」  「いえいえ!なんでもありません!もうすぐ着きますよ。楽しみです!」  結構歩いた。金龍街アーケードから区役所を越えると、空気感が変わって普通の街並みが広がりだすエリアだ。到着したのは小さな商業ビルだった。  「ここの地下です」  そう言うと、パッと見では気付かない場所に、地下へ降りる階段があった。そこに申し訳なさそうに立看板が置いてあり「珈琲屋 まかろん」とあった。  「さぁ行きましょ」  狭い階段を降りて、やたら重厚なドアを真響さんが開けた。その瞬間、コーヒーのいい香りが鼻を癒す。喫茶店はこうでなくては。素晴らしい。  「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」  カウンター越しに、ビシッと蝶ネクタイに真っ白なシャツ、パッキパキの黒ベストが決まっている初老のマスターっぽい方が言うと、真響さんは奥の方のテーブル席へ向かう。俺はその後を付いていく。  雰囲気のある店だ。レトロと言う訳でも、最近よく見るオシャレ過ぎカフェと言うわけでもない。オブジェや写真なんかも主張し過ぎていない。  「素敵な喫茶店ですね」  「私も初めて来ました。ずっと気になってたんです。一緒に来てくれてありがとうございます」  メニューも至ってシンプルだ。マスター1人でやっているのだろうか。そうだとしたら、混んできたら大変だろうからな。    「んー・・」  真響さんはメニュー表と睨めっこをしている。迷うほど種類無いような・・  「お決まりですか?」  マスターがおしぼりとお冷やを持って注文伺いにきた。ダンディだ・・。俺もこういうおじいさんになりたいものだ。  「真響さん決まりましたか?」  「・・す、すいません!もう少しだけ・・」  「承知しました。お決まりになられましたら、お呼び下さい。失礼いたします」  完璧な接客だ。まさにマスターだ。  「高槻さんは決まりましたか・・?」  「えっはい。カフェラテにします」  すると顔を少し赤くして、恥ずかしそうに真響さんが片手を口にあて、囁くように言った  「じゃ、じゃぁケーキセットにして・・ブルーベリータルトを頼んでくれませんか」  ケーキセット?俺はメニューを見直した。ドリンクにケーキがセットでお得になるやつだ。ケーキはショートケーキか、パンケーキか、本日のケーキ・・。なるほど。今日はブルーベリータルトとカウンターにある黒板にチョークで書かれてある。  「もしかして、どのケーキにしようか迷って・・?」  首を縦に何度も振って  「だって!パンケーキ食べたいけど、ショートケーキも捨てがたいし・・かと言ってブルーベリータルトですよ??絶対美味しいんです。今日食べなきゃもう食べれないかもですし・・」  あー  可愛い  これは可愛い  心臓にくるやつだ  「じゃ、じゃあ3つとも食べちゃえば?」  「だ、だめですよ!太ります!でも・・晩ご飯も今食べるって事にして・・でもお母さんに何て言おう。うーん!ケーキ3つ・・でもなーうーん・・」  「飲み物は決まってるんです?」  「あっはい。ミックスジュースにします。でもケーキが・・」  「すいません」  俺はマスターに声を掛けた  「えー!高槻さん私まだ・・」  「お決まりですか」  「ミックスジュースとカフェラテ。ショートケーキとパンケーキセットで。それとブルーベリータルトを別に1つ頂けますか」  「ぬあ!」  「賜わりました。少々お待ち下さい」  マスターが伝票に記入しカウンターへ戻っていった。  「ケーキ食べてる女の子を、見てるの好きで」  「えっ」  「俺からの奢りです。遠慮せず。3つ分、可愛いとこ見せていただきます」  「は、恥ずかしいです・・でも・・ありがとうございます」  それからは、真響さんもだいぶ緊張が解れて、笑いながら色んな話ができた。  高校2年生。17歳。生まれも育ちも川崎らしい。多摩川の河川敷が好きで、小さい頃からスケッチブックを持って、よく川辺で絵を描いてきたようだ。    その内、人物を描く事にも興味がでて、金龍街にある公園のベンチに座って描く様にもなった。学校が終わると、すぐ1人で。  コンクールやコンテストに出展するとか、将来はイラストレーターにとか、そう言う事は考えていないらしい。ただ、絵を描くのが好き。彼女の話す内容や、嬉しそうにしている表情からそれが良く伝わってきた。  この子はきっと、神様に魅入られている。そんな気がした。彼女が描いてる作品を、プロが観て評価した時にダメだと言うかもしれない。  でも、彼女の絵を見ただけで人の心を捉え、震わせたのは事実だ。誰がなんと言おうと、彼女の絵は素晴らしい。きっと、絵を見れば、同じ様に思う人がたくさん出ると思う。  凄いな。俺なんかが書いた小説の扉絵なんて、この子に描いて貰っちゃ申し訳ない。近い未来に、この子が凄い絵描きになった時、黒歴史になりかねん。  「高槻さんの小説を読んだ時、この人はきっといい作家さんになるって思いました」  えっ・・  「だから、私なんかが扉絵のイラストを描いたらいつか高槻さんの汚点になるんじゃって不安で・・」  違うよ・・真響さん・・  「ほんとに私なんかでいいんですか・・」  「勿論です。真響さんしか考えられないです」  無意識だった。俺は真響さんの手を両手で握りしめていた。それもおっさんの熱い眼差しを伴って。  「・・はい!頑張って描きます!頑張ります!」    
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