200人が本棚に入れています
本棚に追加
愛がなくても友はいる
◆
「お風呂ありがとうございました」
場所を移し、ここは佐野さんのマンション。佐野さんはあれから遠慮するわたしを引きずるようにしてここへ連れてきた。
「どう? うちの自慢のバスルームは?」
「広くて羨ましいです。うちは浴槽で足を伸ばせなくて」
「でしょ? 本当はもっと狭い部屋でも十分なんだけどさ。バスルームが気に入っちゃってて引っ越せないんだよね」
キッチンから温かい匂いがする。わたしは髪をタオルで拭いつつ室内を見回す。佐野さんの言う通り、一人暮らしでは持て余してしまう間取りだ。
うろうろと身の置き場に迷っていると2人掛けのソファーを勧められた。
「突っ立ってないで座って。あとレトルトだけど、どうぞ。最近のレトルトカレーのクオリティーは高いのよ」
「すいません」
「ほら謝るくらいなら、さっさと座って食べましょうか」
とりあえず床に座る。食事などする気分じゃないはずなのに、いざ目の前に並べられると空腹を刺激されてしまう。
いただきます、手を合わせ一口頬張ると素直な感想が口をつく。
「おい、しい、です」
「でしょでしょ? 昔は時間かけて手作りしていたけど最近はこれで十分。カレーって簡単な料理と言われる分、凝りだすときりがない奥深いメニューでもあるよねぇ」
「……あぁ、橘くんも同じような事を言ってました」
このカレーも美味しいが、橘くんの作るカレーも負けてはいないのを味覚が訴えいる。
「橘くん?」
「あ、すいません、旦那のことです」
「あなた旦那を名字で呼んでるの?」
「はは、おかしいですよね。でも習慣になってて」
「別に珍しいと思っただけでおかしくはない。ふーん、旦那さん、料理するんだ?」
「料理だけでなく家事全般をしてくれましたよ」
「ました、ね。過去形?」
指摘にスプーンが止まる。
最初のコメントを投稿しよう!