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「アヤちゃんから聞いたんですよね? わたしのこと」
佐野さんは答えない。アヤちゃんがわたしの不貞を暴露したとしても彼女を恨むつもりはないが、佐野さんに言ったところで信じては貰えないだろう。
「答えなくていいです。わたしの家庭の状況は、まぁ、察して下さい」
「私は他人の夫婦関係については、とやかく言う気はないから安心して。たださ」
「ただ?」
「旦那が作った料理おいしい?」
「え、えぇ、まぁ。おいしいです」
「そっか」
質問の意図が読み取れず、間があく。すると佐野さんは乱暴にひとくち、ふたくちとカレーを放り込み、カレー以外の何かも飲み込んだ。それはわたしへの非難に違いない。
沈黙は続き、カレーの味が鮮明に感じられる。
確かに美味しいけれど、わたしはもっと辛い方が好みだ。お肉は牛より豚がお財布に優しそう。野菜は食べごたえのある大きさがいい。特にじゃがいもはーー。
そういえば橘くんはカレーのじゃがいもが苦手でわたしのお皿によく移してきたっけ。それほど嫌いなら入れなければいいのに。
「……」
違う、わたしが好きだから入れていたのか。
そっか、そうだったよね、わたし忘れていたよ。
「ねぇ、愚痴っていい?」
「佐野さんがですか?」
「何よ、私にだって愚痴りたい時くらいあるわよ。お酒もってきてくれる?」
冷蔵庫の方向を顎で示される。人の家の冷蔵庫を開けるなんてと抵抗を感じつつ、生鮮食品がほとんど入っていない大きな空間を前にする。
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