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「あー、そもそも浮気をしといて許されたいっていう考えがよくないか。これは浮気に限っての話じゃないけど、人のものを盗んじゃいけないでしょ」
「人のものって、もの扱いはどうかなって思います」
「ふーん、あなたが言ってもいまいち迫力がないけど? 私からあなたは良くも悪くも周囲に流されて物事の選択してきたように見える」
「そうですね、今更ですが反省してます。人と対立したくない、言い争いするくらいなら怒りを流してしまおうって立ち回ってきました。
ただ彼との場合、彼はわたしが何も言わないって怒り、わたしはわたしで彼は何も聞いてくれないってすれ違っていただけなのに、どうしても行き違いを素直に謝れないんです」
「といって不倫していい理由はないよ。でも結果さ、謝罪は自己満足。謝罪を受け入れるのも自己満足ってことで」
「自己満足ですか……」
そうかもしれませんね、と付け加えたい衝動を噛む。
「人でも、ものでも壊したら全く元の通りにはいかない。浮気をしたら今度は自分が浮気をされるかもしれないと不安になり、浮気されたほうはまた浮気をされるかもって疑う。
心変わりした彼が関係の再構築を申し出たとしても、私は心変わりされたのを無かったことには出来ないと思う」
「……今も好きなんですか?」
佐野さんは伏せていた目をあげ、諦めたよう細める。
「彼が離婚したいって言った時、嫌われたくなくて物分りがいい女を演じただけ。どうせならこちらが彼を嫌いになるくらい、なじっておけば良かったな」
あーあ、盛大にため息をつき、そのまま寝そべり背を向けられた。
「それと旦那さんの料理、美味しいなら美味しいって伝えてあげなよ。それだけで大分違うんだって」
何がどのくらい違うのか、とは聞けなかった。佐野さんが泣いていたから。
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