愛がなくても友はいる

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 わたしは一気に燃え上がる恋愛感情、たとえば一目惚れとか、そういう現象をあまり信じてこなかった。段々と心を通わせ関係を深めていくのが理想的と思っていたんだ。  そして、段々惹かれていく気持ちがあるなら、段々離れていく気持ちもあるはず。わたしと橘くんはもうずっと以前より砂が落ちきった時計だった。  夫婦として蓄積してきた月日は透明で空っぽで、離婚したいと切り出された時には離婚したくない理由が明確にできず、ここでやっと自分達が空っぽであると認識する。  わざわざ不満を言葉にするまでもない、我慢に似せた折り合いが夫婦関係を冷ましていたと。橘くんを嫌いではないが好きでもないのは、興味を向けない他人と同じだね。  窓から青空が覗く。眩しい、大きく息を吸い込んでからむせた。
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