愛がなくても友はいる

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◆  夕食の匂いが広がる中、橘くんが帰ってきた。靴を丁寧に揃えスリッパへ履き替える姿が見なくとも浮かぶ。  彼は静かにドアを開け、キッチンにいるわたしへ視線を寄越す。ただいま、おかえりのやりとりがスムーズに出来ず、お互い気まずく会釈した。 「着替えてくる」 「うん」  調理器具を洗いながら返事をする。今夜は久し振りに橘くんの好物を橘くんの為に作ってみた。  ご機嫌伺いだと思われるだろうが、そうじゃなくて丁寧に作ってみようと考えたのだ。そして改めて気付く。橘くんの好きなメニューが結婚当時からアップデートされていないと。  離婚したいと言われ、いやそれ以前からも共通の話題は【食】だったのにね。 「もしかして揚げ物?」 「そう。唐揚げを作った」 「唯さんの唐揚げか、楽しみだな。昼食減らしておけば良かったな」  橘くんは部屋着の腹部を擦り、予防線を張る。あまり食欲がないのだろう。それも当たり前か。  ーー最後の晩餐が穏やかに始まろうとしている。
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