愛がなくても未来は見たかった

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「寄っていいかな?」  いつかガーベラを買った花屋を指差す。橘くんは頷き、お菓子が入った袋を持とうとしてくれた。 「ありがとう、大丈夫。自分で持てるし」 「……あぁ、そう言えば唯さん、ガーベラ買ってたね。ここで買ったんだ?」  わたしが入店しても橘くんは店先で立ち止まる。 「うん。あの時、橘くんが花の名前を知っていたの意外だったな」  スタッフが御用聞きにきて、お見舞用と伝えた。 「母が一時期、家を彩るのに凝ってて。それで覚えたんだ」 「そうなんだ。わたしはチューリップくらいしか名前が分からない。花のある生活って素敵」 「母は買ってくるだけで世話は僕任せでね。買ってくる人はいいよ、日々の彩りだの言って楽しい。枯れた後始末をする側はそんな気まぐれに付き合わされて嫌になる」  お義母さんは忙しい人であったと聞く。あまり橘くんを構ってあげられなかったのを後悔しており、母親になるならば早いに越したことがないと何度も念を押されたっけ。  会話の種になるかもしれない、眺めていると明るい気持ちになれそう。お義母さんが花を購入した心の動きはなんとなく分かり、橘くんの気持ちは分からない。    そして、わたしの気紛れは花にとどまらず、ユウト君まで摘んでしまったんだ。
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