愛がなくても未来は見たかった

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 会話が尽き、側で束ねられる花を二人で見守った。ううん、違うか。わたし達は意見の言い合いをしただけで会話になっていない。  花束を受け取ると、諸橋さんの病室へは徒歩で向かう。この際に伝えておく事はないかと巡らせながら沈黙する。  橘くんと並んで歩くのは久し振りだ。肩越しから覗く街の景色は忙しなく、すれ違う人々、走り抜ける車や自転車を無感情で眺めた。 「折をみて母さんには僕から話すよ。唯さんのご両親への説明は僕がしようか?」 「うちも機会を伺って話す。橘くんが両親に不倫の件を話したいなら、どうぞ」 「そういう意味で言ったんじゃない。僕だって高齢の義父母に余計な心労を与えたくない」 「余計な心労、ね」  どうせ、わたしからお義母さんに話して欲しくないので、うちの両親を持ち出して来たんだろう。お互い「言わないで」の一言で済むのにね。ギスギスを通り越し、虚しくなる。  そんなところにユウト君が現れた。
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