愛がなくても朝食は食べる

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 こういう時は差し支えのない言い訳をすればいいのに、できるくせに、わざと曖昧な笑みを作ってしまう。  力ない笑みを向けられて、店長は上司から他人の顔へ変わる。 「悪い、これから店長会議に行かなきゃいけないんだ。店、頼んだぞ」  そうして時間を露骨に確認する仕草は面倒くさいという意味だ。結果、バイトスタッフとお揃いの時計を見せ付けられ、古株は大人しく手を振り返す。  時計といえば、橘くんは結婚指輪をしないが、新婚の頃に贈った時計を身に付け続ける。今朝もしていたあの時計が、夫婦としての終わりをカウントダウンする役割まで担っているなら皮肉だ。    
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