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高校を卒業し、正社員として働き始めたわたし。 山下 彩香、この時18歳。 ちなみに、彩る香りと書いて「さやか」。 よく「あやか」と読み間違えられるのが、わたしの 些細な悩みの種。 わたしが入社した会社は、大きな会社の下請けの下請けで、決して給料は良くない。 しかも募集していた部署とは別部署に配属され、詐欺だと訴えたいくらいの状況だった。 しかし実際配属された部署は男性がほぼ占めていて わたしの他には、同期の女の子が一人しかおらず、 はからずともチヤホヤされる環境であった。 直属の上司もいい人で、担当の先輩もとても優しく、好感を持ちすぎて、恋と勘違いしそうなレベル。 わたしは「好き」を錯覚しやすいようで、しかも同姓にもその勘違いが発動する、やっかいな女だ。 中学、高校時代、好きな男の子や彼氏がいた時もあったが、一番仲のいい女友達に、おかしな「好き」を抱えていることを、はっきり自覚していた。 こっそりその子のフレンド帳を盗んで、自宅で舐め回すように眺めたり、とにかく抱きしめたい、キスしたいという欲望に駆られていた。 わたしの欲望が具現化したのは、高校の時。 勘違いを発動していただけの相手が、わたしの気持ちを受け止めてしまったのだ。 相手は面白半分だったのかもしれない。 好きで好きで止まらない、わたしを見て楽しんでいたのかもしれない。 それでもわたしは幸せだった。 まさか、女の子と抱き合い、キスする日が来ようとは。 叶ってしまった欲望は歯止めが効かず、わたしはどんどん性的な情事に染まっていった。 今思えば、性経験もないわたしが、同姓の欲を満たすなど、到底無理だったろうと、恥ずかしく思う。 同姓に惹かれる傍ら、二次元で生きてきたわたしが 三次元のアイドルに目覚めたり、気になる男の子ができたり、告白されれば承諾して付き合ったりと、 自分でも奔放な恋愛事情だった、とうんざりする。 そんな学生時代を送ったわたしが、入社して男性社員にだけ心惹かれるのは、少し救いであった。 心のどこかで、「同姓に惹かれる自分」を嫌悪していたから…。 しかし、会社では露骨な態度は出さず、心に秘めて 勝手にキャッキャしているだけで満足だった。
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