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待ちに待った顔合わせの日。
定時になったと同時に、PCの電源を落とし、回りに退勤の挨拶をした。
「お先に失礼します!」
いつもすぐに帰ることのないわたしの行動を不思議に思ったのか、同期の裕子ちゃんがこちらを見て首をかしげる。
「珍しいね、何か用事?」
思いがけない問いかけに、一瞬言葉がつまる。
デート?彼氏でもないのに、デートなのだろうか?
出会い系で知り合った人との顔合わせ、と言うのも気が引ける。
「ちょ、っと、頭痛が痛くて、帰って休もうかなと!」
思考回路が追いつかず、おかしな日本語が口をついて出てしまった。
しかし、そんなことすら気づかず、わたしはそそくさと会社を後にした。
車に乗り込み、とりあえず落ち着こう、と、コンビニに立ち寄った。
何か飲み物でも、と思ったが、相手の好みも見た目の雰囲気すらも分からない。
口に合わなかったら持ち帰ればいいや、と、パックのいちごオ・レを二本手に取った。
ふと、携帯を見ると「着きましたー!」とのメールが。
慌てて時計を見ると、約束の時間の30分前。
想像以上の早さに、驚きと嬉しさで頬が緩む。
「早い!(笑)もうすぐ着きます。」と返信し、急いでレジへ向かった。
待ち合わせ場所まで、飛ばせば5分。
期待と緊張で胸を膨らませながら、そんな気持ちを誤魔化すかのように、車内に流れる歌を口ずさむ。
歌いながらもわたしの脳内は、これから会う相手のことをグルグルと考え続けている。
年下の男の子と、なんて、過去一度もそんなことはなかった。
同世代なんだから、と己に言い聞かせながらも、自分の方がお姉さんなのだから、と変に意気込んでしまう。
こんな出会い方も、交流も初めてなのだ。
自分を気に入ってもらえるだろうか、顔を合わせた途端に嫌われたりしないだろうか、ネガティブな思考がフルスロットルで回る。
自分が相手を受け入れられるかも、不安だった。
何せ、文章でのやり取りしかしていないのだから。
不安を余所に、わたしを乗せて、車は目的地へ迫っていく。
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