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夏:流しそうめんとさなぎ
まだ六月の始まりだというのに、うだるような暑さがやってきた。
梅雨なんて露知らず、とばかりに太陽は照りつけ、日中の気温は真夏日。
春に我が家の一員になった、奴――くりまんじゃろも、暑さに弱いのか、エアコンのかかった部屋でぐんにゃり突っ伏している。
心なしかふやけてるような気がするんだが、またカビたりしないか、こいつ?
「おいお前、大丈夫か。溶けたりしないだろうな」
声をかけると、奴はしんどそうに顔(顔と身体の境目はどこだ?)を上げて、のろのろと、そばにあったクロッキー帳とサインペンを手にする。
どういう原理でくっついているのかわからないが、とにかく奴はペンをさらさらとクロッキー帳に走らせ、相変わらずの達筆で答えた。
わたくしの母星では空調管理が完璧になされておりまして、「暑い」「寒い」という感覚が有りませんでした。
それ故、お恥ずかしながら、日本の四季というものには弱くて御座います。
ですが、溶けて中身の餡子が飛び出す危険性は御座いませんので、どうか御心配無く。
お気遣い、誠に有難う御座います。
あんこが飛び出すとか、なんかしれっと言ってるぞ。
とにかく、オレも暑くて仕方ないので、何とか涼を取る方法を考えて、ふと思い至った。
奴を肩に乗せ、部屋を出て台所へ駆け下り、食器棚を開ける。
何年か前に、珍しもの好きのオフクロが楽空通販で買って、一回使ったきりにしていた、プラスチック製の妙ちきりんな。
流しそうめん器。
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