夏:流しそうめんとさなぎ

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 それは何で御座いましょうか?  きょとんとしながら訊ねる奴に、にやっと笑いかける。 「まあ、見てのお楽しみだ」  そうして、冷蔵庫にあったそうめんを一人前よりちょっと多くゆで、希釈しためんつゆのカップに氷をぶちこんで、万能ねぎとしょうがを少々。  庭先にバーベキュー用のテーブルを出して、その上に諸々を置き、水を入れた流しそうめん器を、スイッチ・オン。  ブイーンと音を立てて、流れるプールのように水が回転し出した中に、そうめんを入れる。  そうめんは、水を得た魚のごとく勢いよく回転し始めた。 「うゆ? うゆうゆうゆ!」  クロッキー帳に日本語を書くことも忘れて、奴は大興奮。  そんな奴の目の前で、箸を流しそうめん器に突っ込み、そうめんの流れをせき止めてすくい上げ、薬味を入れためんつゆに浸して、ずるずるずるっとすすりこむ。  うむ、美味い。 「うゆ! うゆーっ!」  テンション高くはしゃぐ奴の口にも、そうめんを持っていってやる。ちゅるちゅるちゅるっとめんを吸い込んだ奴は、しばし呆然とした後、パアアア~っと表情を輝かせた。 「美味いか?」 「うゆ!!」  問いかけに、奴はこくこくうなずき、 「うゆっ、うゆっ!」  と、伸びをするように精いっぱい手を掲げる。
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