夏:流しそうめんとさなぎ

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 奴が流れるそうめんプールに満足する頃、オレはスイッチを切り、流しそうめん器から奴をすくい上げた。  しばらく日向ぼっこさせとかないと、本当にふやけちまいそうだから、テーブルの上に置く。  と。 「うゆっ?」  奴は庭先の木のひとつを興味深そうに指し示した。  ので、奴を肩に乗せて近づいてみると、そこには、オレの親指の先大の。 「ああ、さなぎだな」  けっこう距離があるのに、よく見つけたな、こいつ。オレも目の良さには自信があるが、奴らの視力は一体いくつなんだ。 「うゆ?」 「青虫がさなぎになって、蝶になるんだよ」  さなぎを知らないのか、不思議そうに目をぱちくりする奴に説明すると、何かを言いたげにうゆうゆ鳴き始めたので、テーブルに戻り、サインペンとクロッキー帳を渡す。  奴いわく。  蝶についての知識は図鑑で見た事が有りますが、実物を見るのは初めてです。  是非、羽化を見たく存じます。  と、興味津々に迫ってくるから、その願いをかなえてやらない訳にはいかないじゃないか、という気分になる。 「わかった。一緒に見ような」  その言葉に、奴はまたきらきらきら~っと顔を輝かせて、 「うゆっ!」  と、こくこく何度もうなずいた。
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