Side-A

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Side-A

「ここか」  この地区は雪が酷いとは聞いていたが、かなり酷いな。足下まで隠すフード付きのローブとネックウォーマーまで付けてきたが、もう少し着込んでくるべきだったか? 村に立ち寄った男は、肩と背負った大剣に積もった雪を払いながらドアをノックした。 部屋の中からは(しわが)れた声で「お入りください」と聞こえた。 男がドアを開ける。 すると部屋の中には数人の武装した男たちと、椅子に座りこちらを見据える老人がいた。 「ギルドからの依頼で来た。ここで間違いないよな?」 部屋に入ってきた男が着ていたローブのフードをめくり上げた。 雪のように白い銀髪と、まだ幼さが残る顔つきだが確実に死線を潜り抜けてきたであろう余裕に満ちた表情の男が、そこにいた。 「はい……わたしがこの村の長です」   椅子に座っていた老人が答えた。 「そうかい。被害は?」 男の質問に村長は「まだ被害自体は…」と口を濁す。 「ん?どういうことだ?」 怪訝そうに男は村長に訊き返す。 「はい…被害自体は出ていないのですが…奴らは村の女たちを人質にしております……そして『食糧』を持ってこなければ一人ずつ女を殺すと脅してきているのです…」 この場合の食糧とは、人のことだ。 戦いの相手は人間じゃない。 「なるほどね。……で、村の男たちが集まり女を助けにいこうとしていた…ってとこか」 「はい…我々も微力ながら力になれればと思い、決死の思いで立ち上がりました」 ギルドの男は改めて周囲を見る。 たしかに武器はあり合わせのようだ。 手斧や棍棒、槍……。 元々は農作業で使っていたものや、手作りで作ったのだろう。 素人にしてはよく作られている。 しかし… 「気持ちはありがたいけどやめときなよ。“擬態獣(ぎたいじゅう)“にそんな武器は通用しない」 「しかしあなた一人だけでは……」 「潜伏の得意な仲間がいる。そいつがもう向かってるから大丈夫だよ。それにこの雪だ。普通の人間じゃ進むこともできないよ」 その言葉に、村長だけでなく武装して死を覚悟したであろう男たちも気落ちする。 「う、うう…お願いします……みんなを…女たちを…助けてください……それでなければこの村は……」 村長が泣き崩れる。 「なーに…心配すんなって、じいちゃん。必ず全員連れ戻してやるからさ。……任せておけ。あとさ、あれ…ちょっともらってもいいかい?」 ギルドの男は暖炉近くの薪を指さしてそう言った。 村長たちは怪訝そうな面持ちだったが「好きなだけ持っていってください」と男に薪を渡した。 そしてギルドの男……ロウガは部屋を出ていった。
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