Side-A

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「来たか…ん?」 大剣こそ背負っているがずいぶん若いな…。 人間で言えばちょうど成人するかしないかぐらいの年齢だ。 まだギルドに入ったばかりの戦士か? ギムレの前に現れたロウガは、全身を隠すようなローブを羽織っている。 あんなもの着ていたら戦闘に支障が出るはずだが…。 ただの馬鹿なのか? それとも舐めてるのか? 「その人たちを放せ」 ロウガはまるで物怖じしない。 人型の擬態獣は総じて強敵が多いはずなのだが、余裕すら感じる。 その余裕を見てギムレは得心した。 そうか、この男は入りたての戦士か…! だから俺らの怖さが全くわかっちゃいねえんだ。 すぐにその余裕を消し飛ばしてやる…! 「いやだね。後ろの女どもが見えねえのか?こっちには人質がいるんだ。なんなら今ここでこいつらを頭から喰ってやろうか?」 ギムレの顎が外れ、鋭い牙が生えそろった口が現れる。傍らに抱える女など一飲みにしてしまうだろう。 女はただ恐怖に震えるしかない。 「兄ちゃんよ。こいつらを助けてえなら背中の大剣をよこしな。それがギルド構成員に支給される『剣』だろ?素直によこすってんなら、俺たちの気も変わるかもしれねえぞ?」 「そーだそーだ!」 ギムレに便乗したラグが小躍りしながら騒ぎ出す。 「……わかった」 ロウガは背負っていた大剣をギムレたちに放り投げた。 からんと洞窟に金属音が鳴り響く。 「ひゃはっ!本当にくれたぜ!馬鹿だこいつ!」 「まあ待てよ、ラグ。……おい、兄ちゃんよ。てめえの愚直さには頭が下がるぜ…その愚直さに免じて、この女は放してやる」 ギムレは抱えていた女を離す。 「あ、ありがとうございます!」と女はロウガの元に走って来たが、ロウガは「出口で待ってて。すぐ戻る」と女を促した。 「さて、と……残りの人質も返してほしいか?」 「ああ」 「なら俺たちの遊びに付き合うんだな」 「遊び?」 「なあに、簡単だ。今からお前には俺の弟、ラグのサンドバッグになってもらう。こいつが飽きるまでな……そうすれば後ろの女どもは無事に返してやろう」 「返してやろー!」 どうやらこの二人はロウガが剣を手放した事で完全に主導権を握ったと思っているようだ。 「いいよ。やるよ」 ロウガは特に表情を変えずにそう答えた。 「おっと!言い忘れてたが、少しでも反撃したら女どもをぶち殺すからな。てめえに許すのはただラグが飽きるまで攻撃を受け続けるだけだ」 「…それだけでいいのか?」 理不尽とも言えるギムレの提案にも、ロウガは余裕を崩さない。 なんなんだ…こいつの余裕は…。 この男が、俺たちより強いってのか? まさか…いや、まさかな…。 不安を払拭するようにギムレは大声を張り上げる。 「ラグ!竜化(りゅうか)だ!血の海に沈めてやれ!」 「あいよ!アニキ!」 ギムレの声に呼応し、ラグの身体がミシミシと変形し始めた。
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