第七章 ほんとうの幸せ

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 翌日、私は蓮美を東京へと連れ帰ることになった。 「絵里様、今回は蓮美が本当にお世話になった。この通り、礼を言いたくても言い足りない」  私は長身の身体をほぼ直角に曲げ、絵里にペコペコと頭を下げる。それが高級旅館のロビーで繰り広げられ、一般客から見ればさぞかし奇妙な光景だっただろう。 「いやぁ…まぁ、蓮美は親友ですし、当たり前です。それに…なんかこう、雨降って地固まるってこういうことを言うのかな、って。まぁ…私は昨夜は別の部屋を取ってもらったし、よかったです」  蓮美の横たわる様子に過剰反応を示し、私が“一晩添い寝をしたい”と大人げなく主張し、旅館側に新たに部屋をひとつ用意をしてもらうと、絵里を体よく追いやり、ちゃっかり自分は蓮美と同じ部屋に宿泊したことを、彼女はにやにやと笑ってしまいそうになった。 「とにかく、蓮美を東京に連れて帰るから、君はこのままゆっくりするといい。お礼と言っては何だが、もう一泊部屋をとっておいたよ」 「はい、はい。まぁ…道中ちゃんとお互いのすれ違いを修正して下さいね、お二人共!」  もはや絵里はやけくそな作り笑いで念を押した。自分が言うまでもなく、二人はしっかり手を繋ぎながらも未だにもどかしい。  ここまで仲が良いのにお互いの気持ちを感じられないなんて、ただの鈍感なバカップルなのかもしれない、と絵里は思った。  私が甲斐甲斐しく蓮美の手をとって車の助手席に乗せると、“じゃあ”と憎らしいほど画になるかっこよさで帰って行った…と、絵里は後から蓮美にさんざん冷やかしの言葉でからかったそうだ。 「蓮美さん…具合はどうなんですか?昨日よりは顔色が良いみたいですが」 「はい、なんだかすっかり元気になったみたいです。ふふ…雄一郎さんにお会い出来たのがこんなに嬉しいなんて…」 「またそのようなことを……!貴女は私に魔法をかけるのがお上手なようですね」 「はい。雄一郎さんが大好きですから」 「私もです、蓮美さん」  信号待ちの車のなかで、二人はそっとキスをした。東京に帰ったら、きっと甘い甘い時間が過ごせるかもしれない…と期待しながら。 the ende
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