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「ああ…。本来なら飲みなおしたいところだが、今日は何故か普段より疲れてしまった。ゆっくり休むことにする」
「かしこまりました」
早坂はホテルの玄関に廻してもらった役員車をエントリーさせると後部座席のドアを開けた。
「ああ、早坂、少し無理を言って申し訳ないが湾岸を遠回りしてくれないか?夜風に当たりたいのだ」
「承知致しました」
首都高を滑るように走る黒塗りの役員車は、その光るボディに東京のビル群の夜景のネオンを映している。私は手元でそっと後部座席のウィンドウを下げた。夜風が心地よく感じ、酒で酔うこともなかった体に優しく触れるようだった。
蓮美さん………。
いつから自分は彼女に夢中になっていたのだろう?今夜なら、勇気をもって彼女に想いを告げられそうだというのに、こんな日に限って、自分の隣には彼女はいない。
知らなかった……。彼女がいないだけで自分の心がこんなに寒々しく荒れるなんて。
車窓から入ってくる夜風は私の漆黒の髪を揺らした。孔雀の言葉に動揺せずにはいられなかった自分が少しだけ口惜しいと思う私だった…。
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