第七章 ほんとうの幸せ

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「ただいま…蓮美さん」  誰もいない真っ暗な自宅に帰るのは、本当に久しぶりだった。日付が変わるのも忘れて仕事に明け暮れていた頃の自分なら、灯りがついていない部屋に何の不満も淋しさも感じなかった。  それが蓮美と暮らすようになった途端、いつの間にか自分はその明るさと温もりに慣れてしまっていたのだ。 「……彼女が居ないだけでこんなにキツいとはな…」  私はサイドボードの上に飾られたフォトフレームのなかの二人の結婚式の写真を見つめた。招待客を極少数に限定した極秘結婚式だった為、緊張しながらも、純白のウエディングドレスに包まれた彼女はまるでおとぎ話に出てくる姫のように美しかった。 「貴女には伝えてはおりませんが、私は、貴女に心の底から永遠の愛をあの日に誓ったのです…」  私はフォトフレームのなかの蓮美に語りかける。 「信じてはもらえないでしょうね…。貴女を偶然見かけたときから私はずっと貴女に恋をしていたことなど」  私が蓮美と初めて出会ったのは学園に迎えに行った日よりももっと前であった。私はまた、あの日のことを鮮明に思い出していた。  伯父の蜂須賀大吉にたまたま用があり、早坂に内緒で公共交通機関を使って移動し、伯父が役員を務める会社である、姫川コーポレーションの最寄り駅に降り立った。
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