26人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
「こうなったら……奥の手を使うか」
絵里は蓮美のスマホを半ば強引に借りると、秘書・早坂のスマホに連絡をとった。
「………はい、早坂でございます」
彼のスマホには“蓮美奥様”と画面表示されている。
「……すみません、蜂須賀氏の秘書の早坂さんですか?」
「然様にございますが、恐れ入りますが貴女様は?」
蓮美とは違った声の主からの電話に、早坂は異変を感じた。
「蓮美と一緒に旅行に来ている絵里です。実は、蜂須賀氏と連絡が取れないのです。彼女が…急病で連絡を取りたかったのですが」
「なんですって?解りました。すぐに社長に連絡を取りますので、折り返しご連絡いたします」
早坂は慌てて電話を切ると、私のスマホに連絡を取った。そこへちょうどシャワーを浴びてバスローブに着替え終えた私が電話口に出た。
「もしもし……ああ、早坂か?どうしたんだ?何か明日の予定で変更事項でも?」
仕事のことだと思って話を進めようとする私に対し、早坂はまくし立てるように声を上げていた。
「社長!先ほど、蓮美奥様が急病だということで、絵里様とおっしゃる方からこちらにお電話を頂きました。社長の携帯が繋がらない…とのことだったので」
…………なんだって!?
私は思わず胸騒ぎを覚えた。
「早坂!悪いが私は今から箱根に蓮美を迎えに行く。明日は出社出来ないと皆に伝えておいてくれ。これは私用だからお前は来なくていい。自分の車で行く」
「え?あ、ちょっと待ってください、社長!お車なら私が出します…」
早坂は慌てて返事をしようとしたが、既に電話は切れていた。
「…………こうなることは予想しなくもなかったが、やはり……社長は奥様のこととなると次元が変わるようだな」
最初のコメントを投稿しよう!