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不穏な動き
「……ううん、これはちょっとマズイ事になりそうですわね。まさか、こんなにも早く教会が動いてくるなんて……正直わたくし、あの団体の事を侮っていましたわ。ええ、本当に。」
ーー屋敷内の自室にて。わたくし、フレイア・ウォクリーは頭を悩ませていました。今朝の出来事の後、ある者からの言伝を聞いて。
しかし、これに関してはおそらくーー自身で感じていた違和感と、何か繋がりがあるのではないか?と考えることが出来たので、いきなりの話ではありますが……驚く程の事ではありませんわ。
「そうは言っても……アナタこのままでは、色々とマズイんじゃないの?私たちと違って、人間はすぐに同族を吊し上げたりするからね。
いくらアナタが侯爵の娘でも……死罪とまではいかなくても、どこかに幽閉とか追放とか……そんな感じの目にはあわされるかも?」
すると、わたくしのすぐ側からーーそのある者のどこか面白がるような声が聞こえてきて、そのあまりの具体的で不穏過ぎる内容に対して、わたくしは思わず苦笑してしまいます。
なので、思わず私は声のする方に向き直り、その者の姿を視界に捉えようとするのですが……やはりと言うか、その者の姿をわたくしの目からは視認する事は出来ません。
「その……妖精さん?5年前からわたくしに色々な情報や逃走ルートなどを教えてくれている事には感謝していますし、実際にそれで助かっている事は多いので不満などはありませんわ。
ですがーーいい加減、わたくしにだけならばその姿を現してくれても、よいのではないですか?」
「えー、私たち妖精種は人間に姿を見られたらダメだって、物語の相場で決まってるじゃないか。
それなのに……簡単に姿を現したら、なんだろう。普通に面白くないんじゃないのかな?」
「そ、そうなんですの?ま、まあ……妖精さんが近くにいる事は、なんとなくですが魔力の反応で感じることが出来ますし……。
ーーっと、今はそんな話ではありませんね。わたくしの今後についてどうするかでしたわ。」
「そうだよ。私としてもアナタには生きて、ちゃんと動いていて欲しいからね。何百年と生きる私たちからすると、アナタみたいな変な人間って、早々見つからないからね。
それに魔力や体力にも問題ないし、色々と面白い事をしてくれるから、見ていて飽きないよ。」
ーーそうでしたわ。この妖精さん、おそらく声の高さから女性の方だとは思いますが……酷く、娯楽というものに飢えているようなのです。
そして不思議な事に、私の近くから私の観察していることが妖精さん曰く面白いらしくーーこのように、陰ながら私に助言をしたり、話し相手になってくれたりするのですわ。
しかし、その事によってたまに生じる弊害も、勿論そこにはありましてーー
「(やはり数年前などには、両親や使用人たちには虚空と話し掛けているように見える為、何か良からぬものと会話して精神に異常をきたしたのかと、有らぬ不安を掛けてしまいましたわ。
それが良くないと判断出来るようになってからは、このように……人が誰もいない自室などで話すようになりましたが、あの時は本当にお父さまやお母さまに心配をさせてしまいました。)」
とは言え、圧倒的に生じる弊害よりも、むしろ有利に働く方が多かった為、このように今も妖精さんとは仲良くさせて貰っていますの。
ーーそれに……あの時の事だって、妖精さんがいなければ、これから自分が何をすべきなのか。本当の敵は何で、その目的は何なのかすら知ることが出来ませんでしたしね。
まあ、そのような事を差し引いても、妖精さんとは仲良くしたいと思いますわ。わたくし……世間一般で言う所のボッチと言うらしいので。
んんん、今はそんな事はどうだっていいですわ。それよりもーー教会が私をどうにかするような動きをしているという事を、いち早く妖精さんが私に教えてくれた事の方が重要なのです!
こんな所で、わたくしの今後の活動を邪魔をされてしまっては困りますの。
ですから……そのためには、わたくしーー
「そうですわ!わたくし人生で初めて……家出というものをしようと思います!だってそうすれば、これまでと同じように……いいえ!これまで以上に積極的に、汚染された水を浄化して回る事が出来るではありませんか!
……どうでしょう?妖精さんはわたくしの意見についてどのように考えますの?」
ーー逆転の発想。ここで活動していてダメなら、もっと広くで。この場所に留まっていては危ないのなら、もっと遠くで当て所なく。
今のわたくしに出来る事は勿論限界があり、世間一般では認められた行為ではない事はたしかですわ。それでもーー亡き姉さまに顔向けをする為には、たとえわたくしひとりであっても、必ず救える命は救ってみせますわ!
それが今のわたくしに出来る最大限であり、姉さまを亡くしたあの時から、一度だって忘れた事はない……わたくしの命より大切な使命。
そのため、わたくしは少しだけ食い気味で妖精さんの方(おそらく)を見るとーーどうしたのでしょう?魔力の揺らぎのようなものを感じて……
「ど、どうされたのですか?妖精さん?
何か、わたくしの考えに変な事でも……?」
「くふふ……本当にアナタって可笑しいの。でも……それくらいぶっ飛んでいた方が、ーーにはふさわしいのかもね?
いいよ。ちゃんとアナタがそう出来るように、私がいつも通りお手伝いしてあげる。」
「あ、ありがとうございます?若干失礼な事を言われているような気がしますが……そうと決まれば、お父さまとお母さまに早く報告しに行きませんと!あんまり勝手に出て行き過ぎますと、お父さまの胃がもたないと言われていますから!」
ーーそうなのですわ。いくら、いつもわたくしが無断外出を繰り返してると言っても、お父さまとお母さまに心配をかけ過ぎてしまっては、本末転倒と言うべきですの。
すると、そんなわたくしの言葉に……再び、妖精さんの魔力が微妙に揺れているように感じてーー
「ま、まあ……アナタがそうしたいなら止めないけど……あはっ!……なんで家出なのに、律儀にそれを伝える必要があるんだろう?そういうところも含めて、この子は面白いんだよね。」
「うん?最後の方はよく聞こえませんでしたが……まあ、妖精さんも賛同してくれているという事でしょう!では、早速お父さまとお母さまに家出する事を伝えに行ってきますわ!」
そうして、フレイアは嬉々とした足取りで、この家から家出(遠出)をする事を伝えに行きーー案の定、父 メイガス・ウォクリーの胃に深刻なダメージを与えたという事は言わずもがなである。
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