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イノセントな涙
一人の少女があった。その子はとても泣き虫であった。母の胎内より生まれ出でし泣きじゃくるCryBabyそのままにその身を大きくしていった。
そんな少女に転機が訪れたのは五歳の時、母親とショッピングモールの玩具屋の前を通りかかった時だった。金髪のブロンド美人を思わせる着せ替え人形に心奪われ「欲しい」と、思ったのである。
当然、子供特有の親へのお強請りにかかる。
「ママ、あのお人形欲しい」
しかし、少女は先月に誕生日を迎えている。その時に玩具の魔法少女☆変身スティックを買ってもらっている。母親は「誕生日以外におもちゃは買わない」と、育成方針を決めているために当然拒否をするのであった。
「ダメよ。先月お誕生日で変身スティック買ってあげたでしょ? お誕生日でもないのにおもちゃは買わないって言ったでしょ? 行くよ!」
母親は少女の腕を引いて玩具屋を過ぎ去ろうとする。しかし、少女は人形を諦めきれない。
お強請りはエスカレートの様相を見せた。
「嫌だ! あたし! あのお人形欲しい! 買って買って買って!」
「ダメって言ってるでしょ!」
「嫌だ嫌だ嫌だ! お人形欲しい! お人形欲しい!」
「いい加減にしなさい!」
母親の少女の手を握る手が強くなる。このままでは着せ替え人形を買って貰えない。これだけは絶対に嫌だ! 少女の着せ替え人形を希求する心は暴走を始め、泣き虫の本性を呼び起こした。
少女は堰を切ったようにその場で大泣きを始めた。通りすがりの者や玩具屋の店員までもが二人に注視する。少女の涙は玩具を買って貰えない悔し涙であった。
「おにんぎょお、ぼじいいいいよおおおおおおーッ!」
ここまで叫ばれてはたまらない。母親は着せ替え人形の箱を手にとり、値段を見た。この前の魔法少女☆変身スティックに比べれば値段は半分以下、いつも買い物の際にお強請り無しで買うお菓子数箱やカプセルトイ数個程度の値段でしかない。このぐらいの値段で癇癪が止むなら楽なものだ。母親は「仕方ないか」と、諦めの気持ちで購入するのであった。
ショッピングモールからの帰り道、少女の片手には着せ替え人形の箱が入った紙袋が掛けられていた。少女の表情は玩具を買ってもらえてご満悦であった。
少女は学んだ「泣きさえすればどんな我儘も通る」と。
こうして、最悪の前例を作ってしまったために少女は「涙」と言う武器を利用するようになってしまった。
それ以降、少女は困ったことがあると涙を流す嘘泣きで許しを乞うようになり、自分の我儘も通ることから「人は涙に弱い」ということを学ぶのであった。
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