イノセントな涙

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 少女が小学二年生の時のこと、いきもの係の任を受けた。生活科の授業で近所の川より獲ってきたミナミヌマエビの飼育を任されたのである。 エビたちは教室の一番後ろの水槽で飼われている。エビの観察日記も兼ねているために、児童たちが絵を描きやすいように水草や藻などは一緒に入れていない。水草や藻が入れてあればミナミヌマエビはそれを媒介して生える苔を餌にするために特段世話などは必要ない。だが、今回はそれがないためにペットショップで購入した小型のエビ専用の餌を与えることになった。 「一日一回の餌やり、お願いしますね」と、先生が言う。 少女は言われた通りに一日一回小型のエビ専用の餌を与えていたのだが、ある日のこと、友達と公園でドッヂボールをする約束をしたために餌やりを忘れてさっさと学校から帰ってしまった。  翌日、少女が学校に行くとエビの水槽の前で皆が集まっていた。 「どうしたの?」と、少女は尋ねるが、皆、冷たい目で睨み返すばかり。 少女が水槽を見るとそこにあったのは死屍累々と水底で転がるミナミヌマエビの死体の山だった。 「え? どうして? 死んでるの? 病気?」と、少女は困惑する。すると、クラスの男子が少女に怒鳴りつけた。 「お前が昨日餌やり忘れたんだろ!」 あ…… 少女は確かに昨日餌をやり忘れていたことを思い出した。自分のせいでエビが全滅してしまったと後悔する少女にクラスメイトは容赦をすることはなかった。 「エビごろし!」 「えびーごーろーしー」 「エビが可哀想!」 「ひどいことする」 「いきもの係だろ?」 少女は口撃の集中砲火を浴びる。口撃を浴びせる子供達もアリを踏み潰し、アリの巣に水を流し込んだり、ザリガニを道路に叩きつけたり、トンボの羽根を千切ったりなどと言った、子供特有の虫に対する残虐行為を行っている。それを棚に上げての少女への集中砲火である。不条理としか言いようがない。一緒にドッヂボールで遊んでいた女友達までもが口撃に参加しているのは不条理の極みである。
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