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警察官は少女の家へと向かった。少女は怪訝な顔をしながら警察官を居間へと出迎えた。居間のテレビ台には習字コンクール銀賞の楯が乗せられていた。警察官はそれとなく楯の話をする。
「習字、上手いんだね」
「えへへ、凄いでしょ。学校に飾っておきたいって校長先生から言われたんだけど、あんなことがあったから……」
「へーそうなんだ」
この後は事件の話を「再確認」という形で繰り返した。少女は再び涙混じりで証言を行う。その間、温い涙で潤んだ目はチラチラと何度も何度も机の上に乗せられた楯を見るのであった。警察官は少女のその視線を見逃さなかった。
「あの、これ以上娘に思い出せるのは……」
このままでは母親に阻まれてしまう。ここで引くわけにはいかない。どうにかして楯を手に入れないと。警察官はカマをかけた。
「実はですね、後頭部の傷がですね…… 階段の角に比べて鋭いってことがわかりまして。現場にあった角の鋭いものを集めてるわけでして、ハイ」
すると、少女が涙を拭い声高らかに叫んだ。
「金賞の楯! 思い出しました! 彼が転んだ時に楯を手放したんです! あたしは見てないけど! きっとそれが頭の後ろに当たったんだと思います!」
嘘だ。金賞の楯は真っ二つに割れている。高いところから落ちたということは明白だ。間違ってはいない。しかし、その落下先が踊り場の硬い廊下ならの場合だ。もし、後頭部に楯が落ちたならば後頭部でワンクッション置いているので割れるはずがない。そして、何より金賞の楯からは血液反応は出ていない。出るとすれば…… あれしかない。警察官は銀賞の楯を手にとった。
「あの場にありました角が鋭くて硬いもの。この銀賞の楯もこれに該当するので『確認』のためにお貸し願えないでしょうか」
後ろめたいことがなければ何も問題なく貸して貰えるだろう。
しかし……
「嫌!」
「どうしてだい? すぐに返すよ」
「いや! この楯はあたしだけのもの! 誰にも貸さない!」
少女は狼狽したように楯の元へと駆け寄り手にとった。警察官は手を伸ばして楯を貸してくれないかと交渉を続ける。
「君がずっと持っていたんだったら血液反応が出るはずないでしょ? 出ないことの確認をするだけだから」
少女は楯を両手で持ち泣きながら暴れ回る。振り回された楯の角が警察官の手の甲を鋭く掠める。痛みを伴うことで公務執行妨害の大義名分が出来た。少女は楯と共に警察署に連れて行かれることになる。
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