小林まりこの場合

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 この時間帯は、仕事終わりのOLの姿が多い。笑顔で手を上げる彼女たちは、間違いなく私よりもここでは先輩だ。そんな彼女たちに、笑顔で対応する彼を見て、いつにも増してイラッとした。もちろんそれも、決して年齢的な嫉妬ではない。  そんな彼の第一印象は、たぶん軽い、だった。そのことを友達に話すと、間髪を入れずに「大人げない」と言われた。もちろんそんなことは分かっている。だから今度は逆に、大人な対応を試みることにした。  かなり余談ではあるけれど、の逆がない奴に、ものすごくイラッとする。たぶん、会社の先輩がやたらめったらを連呼するからだろう。その場面を思い出して、ため息が出た。  なんだか最近、うまくストレスが発散できていない。  仕事終わりに以前ほど飲みに行かなくなったからだけではないけれど、周りの友人や同期がどんどん結婚していくと、時間を合わせて会うと言うよりは、時間が合うから会う、と言ったふうに変わり、さらにはその回数も減り、一人でいる時間がどんどん増えていく。だから、自分の行動範囲が次第に狭くなり、ストレスが蓄積されていくのだろう。いちいちそんな分析をするのもどうかと思うけれど、一人の時間が長いと嫌でもあれやこれやと考えてしまう。  ジムで体を動かしていれば、余計なことを考えなくて済むと思ったのが、今のところ、唯一のここに通っている理由かもしれない。 「まりこさん、もう少し背中を伸ばして下さい」  スパッツの柄が目の端でギラギラとしている。彼に言われた通り、前を向いたままそうした。  今日は、わざわざ仕事を早く終わらせてジムへ来た。金曜日の午後は、比較的空いているからだ。  ちなみに彼は、最初から私のことをと呼ぶ。  学生のバイト改め、彼の名前はMatsumotoさんだ。首からつり下げるタイプの名札にそう書いてある。都会のジムは、名札までいちいち洒落ている。これはたぶん、褒めている。自分でもたまに、褒めているのか卑屈なだけなのか分からなくなる時がある。
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