純文オタクの男

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純文オタクの男

俺は、物心ついた時から本が好きだった。 幼少の頃は、ファンタジーに心躍らせた。 両親を不慮の事故で亡くし、資産家の叔父に育てられた、その複雑な環境も相まって、長じては、純文学に傾倒。 国立大学の国文科に進学し、あまり人と交わらずに、古今東西の純文学を読み漁った。 ファンタジーやエンターテインメントは、子供や無学な人が読むものと見下すようになっていった。 そして、卒業後は、大手出版社の文芸部門に就職したのだが。 俺は幻滅した。 純文学部門が、ほとんど人から見向きもされなくなっていることに。 小説業界全体がそうなのだが、その中でも人々が求めるものは、安易な娯楽小説やエンターテインメントばかり。 くだらないものと見下していた、「異世界転生」なんていうものが大流行りで、俺が心から求めていた、本当に高等な人間の精神性が発揮される純文学を扱う仕事はさせてもらえない。 それで俺は嫌気がさして会社を辞めてしまった。 それで、叔父の残してくれた遺産で、六畳一間のアパートを借り、そこに、かび臭い本を山と積みながら一人暮らした。
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