彼女のこと

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大学進学にあたっての詳細なやり取りは、すべて彼女のご両親が行ったので、彼女自身はその人と会った事がないらしいが、彼女の母親の話ではイケメンとの事だった。 彼女に一目惚れした身の僕としては、このまま彼女と彼が出会わないで済むように願うばかりだった。 だって僕は、のぞみさんに、僕が以前から『21時のピアノ弾き』を知っていたということすら、打ち明けられないままだったから。 何度か、話そうと思ったタイミングはあったのだ。『21時のピアノ弾き』の事を教えてもらった時、実は僕もその動画を見た事があると言えばよかった。 でも僕は怖かった。彼女に、ストーカーのような印象を与えてしまうのじゃないかと、それが不安でたまらなかったのだ。 カフェを見つけたのも彼女のお兄さんに紹介してもらったのも、本当にただの偶然だ。けれどどうしたって誤解を与えてしまうのは目に見えている。 僕が逆の立場なら、きっと相手を疑ってしまうだろう。 そして、その相手と距離を置こうとするだろう……そう考えたら、とても言い出せなかったのだ。 そして僕は自分の事を何ひとつ打ち明けられないのに、それでも彼女との関係はどんどん近くなっていくばかりだった。 連絡先を交換して、ピアノ以外の事でも盛り上がったりして、長電話もよくした。 おしゃべり上手な彼女は僕をいつも楽しませてくれて、幸せな時間をくれた。 その中で、事故のことも時々教えてくれた。 自分以外にも大怪我をした人はたくさんいて、生死の境をさまよった人もいたのに、自分は視力を失ったものの命に別状はなくて、指は無事だったから大好きなピアノだって弾けた。それなのに大学に行けなかったくらいで一年近くも落ち込んでいたなんて、情けない…彼女はそう言った。 他にも、本当は ”あしながおじさん” からは『21時のピアニスト』というタイトルを言われていたのに、ピアニストなんて今の自分にはおこがましいからと、『ピアノ弾き』に変更したということを話してくれた。 そんな風に、彼女の内面を知れば知るほど、僕は彼女にますます惹かれていった。 そして、彼女の方も、僕に興味を持ってくれていたし、おそらく好意も抱いてくれている……ように感じる瞬間が度々あった、ある日のこと。 僕は、彼女のお兄さんからある話を聞いたのだった。 彼女の将来に関係する、重要な話を――――――
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