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彼女の意思は、固そうに思えた。
だけど、僕は彼女と同じくらい、彼女のお兄さんの望みも叶えてあげたいと思ったのだ。
それに僕自身だって、彼女の瞳に、僕を映してほしいと願ったから。
彼女を好きだという想いが増していく中、今の関係がどう転ぶか分からないような、まったく予測のつかない事に、躊躇う気持ちがないわけではない。
けれどもし、彼女の瞳に僕が映されるのなら、それは、関係を前に進めるきっかけになるのかもしれない……そう思えるようになったから。
「でも僕は、きみに、僕を見てほしいんだ」
はっきりと告げた僕の言葉に、のぞみさんは、一瞬驚いたような反応を示した。
「僕を見て、僕を知ってほしい。もちろんそれは姿形だけのことじゃないけど、でも、のぞみさんは気にならない?僕がどんな顔してるのか、どんな格好をしてるのか」
「そんなの、気にならないわけないじゃない」
即答だった。
「私だって、宗さんの顔が見たいわよ。だって兄さんがいつも『宗くんは男前だ』って言ってくるし、着てるものだってきっとオーダーのスーツで、長い時間座っててもシワが入りにくい上質でおしゃれなものだって褒めてたもの。そんなの、私だって見てみたい。だけど…」
彼女は言いにくそうに俯いた。
「だけど、何?」
「やっぱり言えない。これを言ったら、宗さんに軽蔑されるかもしれないから」
「軽蔑なんかしない。絶対に」
今度は僕が即答する番だ。
彼女が何を言いにくいと思っているのかは知らないけれど、僕が彼女を軽蔑するなんて事はあり得ない。例え彼女が殺人犯だったとしても、何かとんでもない事情があったに違いないと、即座に彼女をフォローするだろう。それほどには、月島のぞみという人物に好意を持っていて、信頼して、尊敬しているのだ。
「……ううん。やっぱり言えない」
頑なな彼女。無理強いするのもどうかとは思ったが、そこに、彼女が手術を拒否し続ける手掛かりがあるような気もして、僕は、可能ならば聞き出したかった。
「それじゃあ、こういうのはどうかな。僕も秘密にしてる事を告白するから、そうしたら、きみも隠してる事を話してくれる?」
「宗さんに秘密なんてあるの?」
俯いた顔を上げ、彼女は訊き返してきた。興味深そうに。
僕は「そうだよ。どうする?」と、彼女に判断を委ねた。
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