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「じゃあ、聞いてくれる?僕の秘密を」
「どうぞ」
「実は………一目惚れだったんだ」
「え?何?」
「僕はきみに、一目惚れしたんだよ。いつ一目惚れしたのかは恥ずかしくて言えないけど……。これが、僕の秘密」
「―――え?」
「僕はきみが好きだ。だから僕の事を見てほしいし、僕もきみの目を見つめたい。手術を、受けてほしい」
彼女は目を閉じたままだったけれど、僕はまっすぐ彼女の目を見て告白した。
すると、彼女は一言「……ずるい」と呟いた。
「そんなのずるい。私だって宗さんのこと好きなのに、でも顔も知らない人の事を好きになるなんて変じゃないかなとか、変じゃなくても、目の事があるから気持ちを伝えるのはずっと躊躇してて、……もし手術して見えるようになったら、好きって言えるのかなとか悩んでた。なのに今そんな風にサラッと言うのって、なんだかずるいよ」
吐露された彼女の想いを、僕は迷わず受け取った。
内心では歓喜を溢れさせながら。
「きみの目が見えても見えなくても、きみが好きだよ。だからもう一度言って?僕を好きだって」
音を立てないように近寄って、彼女の手を握った。彼女は咄嗟に振り解こうとしたけど、やがて観念したように頬を染め、
「好き…」
僕の気持ちに応えてくれた。
「……でも私、いいのかな。一度は死のうとしたのに、それでも誰かの命を受け継いで、好きな人の顔を見て、気持ちを伝えあってもいいのかな。その資格あるのかな」
「そんなの、いいに決まってる」
僕は囁きながら、彼女の指先に口づけを落とした。
「そうじゃなきゃ、僕が困る」
そのセリフに、彼女は返事をせず、ただ、肩を震わせていた。
そして僕は、声も出さずに泣き続ける彼女を、ずっと、見守っていた。
彼女の手術が決まったのは、それからしばらくしてからのことだった。
彼女は、また光を取り戻すのだ。
僕も、彼女の瞳に映りたい。
そしてその時、彼女をがっかりさせない為に、僕ができる事を考えよう。
恋する男は健気なのだ。彼女に嫌われないようにと、それを真っ先に考えてしまう。
……それでなくても、僕には、後ろめたさがあったから。
まだ彼女に伝えられていない、秘密があったから………
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