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「え?」
「そのまま、僕を見ずに聞いてもらいたい事があるんだ」
何事かと、不安に揺れる彼女の背中。
その反応が頼りなさげに見えて、僕は彼女を抱きしめたくなるけれど、キュッとストッパーをかけたのだった。
僕の話を、彼女だけでなくお兄さんもご両親も、じっと黙って待ってくれていた。
「……手術、無事に終わって本当によかったね。まずそれを伝えたかった」
「ありがとう。もう宗さんの顔も見る事ができるのよ?」
彼女は得意そうに返してきた。
「そうだね。……だからその前に、きみに話しておきたい事があるんだ」
「それ、宗さんの顔を見てからじゃダメなの?」
「きみを驚かせてしまうかもしれないからね。その前に秘密を話したい」
「まだ秘密があったの?」
僕のトーンを察したのだろう、背中だけでなく、彼女の不安はもっと心の近くにまで広がっていったように感じた。
「うん。……実はね、僕は、ここできみと出会う前に、きみに会ってるんだよ」
一つ一つの言葉を丁寧に、打ち明けた。
ところが彼女は「知ってるわ。『21時のピアノ弾き』を見てたんでしょ?」と、僕の告白を誤解していた。
僕はごく短い息を吐いてから、
「そうじゃない。僕は何年も前、きみと実際に会って、直接話をしているんだ」
真実を告げた。
「……何年も前?」
「そう。きみが事故に遭って失明した後、検査の為に再入院してる時に」
「………え?入院中に?嘘、いつ?病院で?あ、でもその時の私は見えてなかったから、会ってたとしても覚えてないわよね。だけど話をしたんでしょ?だったら声は覚えてると思うんだけどな……」
彼女の混乱がダイレクトに伝わってくる。僕はこれ以上混乱させないような言い方を探してはみたけれど、結局、どう言ったって驚かせてしまうのは明白で。
だったら余計な事など考えず、素直な想いを言葉にしようと思ったのだった。
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