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「うん。確かにきみは耳がいいから、僕の声も覚えてるだろうね。それで前に会った事があると気付いたかもしれない。………でもそれは、当時と今の僕の声が同じだったらの話だ」
「え?」
「当時の僕は中学生。声変わり前の子供の声だったから、再会した後もきみは僕に気付かなかったんだよ」
「え……?ちょっと待って、私が入院してる時に宗さんは中学生だったの?え、じゃあ今はいくつなの?もしかして私より年下ってこと?」
興奮気味に質問を投げられて、僕はその全てに応じるように心を整えた。
「僕は今、高校生だよ。きみの言った通り、きみよりは年下だ」
「そんな、だって、ここに来るのはいつも仕事帰りだったじゃない。それに、スーツの似合う人だって、兄からも聞いてたし……」
「父の仕事を手伝ってるんだよ。それに、高校生だってスーツくらい着るよ?父親世代の大人に交じって仕事をするんだ、スーツだって着こなせないと話にもならないからね」
「それは…そう、なのかもしれないけど!でも今の声だって落ち着いてるし、ダンディだし、とても高校生には聞こえないもの」
「そうだね。僕は十代の若々しさがないとよく言われるよ。だけどきみと初めて言葉を交わした時は、女の子みたいな高い声だった」
「女の子みたいって………あっ!」
何かに思い当たったように、彼女は顔をこちらに向けようとした。
「待って!そのままで。こっちを見ないで」
僕は慌てて制した。
彼女は反射的に従うように、急いで顔を戻した。
「………あの時の子供が、宗さんだったの?」
「きみは僕の事を女の子だと思い込んでいたみたいだけどね」
「それは…、だって女の子にしか思えない可愛い声してたし、あの時私は…精神的にとても参ってて、正常な判断なんかできなかったもの……。ねえ、今話してることって、そっちを向いちゃいけないのと関係してるの?」
まるで、当時のことは過去の黒歴史だとでもいうように話す彼女だったが、僕は事実のみを受け取って、返事した。
「もう少しだけ、このままで聞いてほしい。あの時きみは、確かに、相当落ち込んでいたね。だから僕は、声をかけた。夜中に部屋から飛び降りかけてたきみを止めようと思った。だから、翌朝、父に提案したんだよ。きみの為の融資をね」
「―――融資?融資ってどういう意…」
どういう意味?と問いかけた唇は、驚愕の形に変わったようだった。
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