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「あしながおじさん…………」
のぞみさんが、喉の奥から絞り出すように呟いた。
その声は、掠れているようにも感じた。
「そんなまさか。まさか、そんな……まさか」
背を向けたまま同じ言葉を繰り返す姿は、さっきまでとは比べ物にならないほどの動揺、混乱が彼女を襲っている証だ。
驚かせてしまう事は覚悟していたが、その度合いは僕の想像を超えているようにも思えて、申し訳なさも浮かんでくる。
すると僕を擁護するように彼女の母親が口を開いた。
「のぞみ、ちゃんと聞きなさい。東雲さんに失礼よ。あなた達が ”宗さん” ”宗くん” と言ってるから、てっきり宗という苗字の方と親しくなったのかと思ってたけど……東雲さんの事だったのね。東雲さんはね、お父様を通じて連絡くださったの。ピアノが弾けなくなったわけじゃないのにただ目が見えなくなったというだけでピアニストへの道を塞ぐのは勿体ない、そう言ってお知り合いの音楽関係者の方を紹介してくださったのよ。その方が大学側に推薦してくださって、東雲さんが寄付してくださって、あなたの受験が実現したの。驚くのも無理ないけど、まずはお礼を申し上げなさい」
母親的な圧もあったけれど、半ば鳴き声で言われると、こちらまでもが感情を揺さぶられそうになる。
いや、ダメだ。ここで感情を揺らしてはダメなんだ。まだ彼女に伝えるべき事があるのだから。
「宗さん、あなたが、”あしながおじさん” だったの………」
のぞみさんは、僕を見ないまま、最後のダメ押し的に尋ねた。
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