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膝の上で両手を握り締め、その中に弱い自分、誤魔化そうとしていた自分を閉じ込めるつもりで、ギュッと力を加えた。
彼女だけじゃなく、お兄さんも、ご両親も、僕が今から何を話すのか、見守ってくれている。
僕は一度の瞬きをして、二度の胸の呼吸を見送って、静かに、話しはじめたのだった。
「……僕の家は割と知られた会社をいくつか持っていてね、僕はそこの跡取りとして義務教育を終えたら少しずつ仕事を覚えていく予定だった。だけど中学の時、思いもよらない事が起こった。大きな…交通事故だ。迎えの車で家に戻る途中、信号無視の車に衝突されて、僕の乗った車は大破。運転手は意識不明の重体。僕は意識はあったものの大怪我で、動く事ができなかった。気がついた時には病院のベッドの上だった。最初は、自分の身に何があったのかが分からなかった。だけど麻酔が切れてくると、徐々に痛みに襲われてきた。強烈な痛みだった。でも体をうまく動かせなくて、何がどうなってるのか分からなくて、………足を失った事を知らされたのは、その翌朝になってからだった」
「足……?」
理解できないという呟きをした彼女。彼女だけじゃない、僕以外の全員が、顔色を大きく変えていた。
僕は「もう振り向いていいよ」と告げた。
そして、ストッパーである駐車ブレーキを解除する。
彼女は恐る恐る体を回し、ゆっくりと、目を開いた。
「―――っ!」
初めて見る彼女の瞳は、髪と同じように艶やかな黒色で、驚きと動揺に滲んでいても、とても綺麗だった。
そして、
「車椅子………」
小さく小さく呟いた。
僕の顔を見たいと言ってくれてたけれど、顔よりも先に目に映ったのは、僕の座る車椅子だったようだ。
「うん、そうだよ。義足もあるんだけど、どうも相性が悪いみたいで。成長期に足を失ってしまったから義足の調整も色々と必要になってくるんだ。長時間付けてると痛みも出てくるから、仕事と学校の時以外は外す事にしている」
すると彼女は大いに驚きながらも、「だから……」と、まるで謎が解けたような相槌をした。
「だから?」
「だって、宗さんの声はいつもそんなに高くないところから聞こえたし、私の手を握る時も、上からというより横から握られてるような感じがしたし、考えてみれば、おかしな違和感はあったもの……。でも全然気が付かなかった。音に関しては自信あったのに、車椅子の音なんて分からなかった………」
「それは無理もないよ。だって僕達が会ってたのはいつもお兄さんのカフェだったし、僕はほとんど動き回らなかったから。手術前に一度病室でも会ったけど、それだって、そんなたいした時間でもなかったからね。それに、僕も自分が使うまで深く知らなかったけど、車椅子って、ちゃんとメンテナンスをしてると、意外と静かなんだよ。もちろんガタガタな地面だと音もするけど………でもとにかく、驚かせてごめんね」
どうフォローしたところで、今の彼女の顔を見れば、何度でも謝りたくなってしまう。
だが彼女は、素早く首を横に振った。
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